東北大学
学際科学フロンティア研究所

FRIS Interviews #12

FRIS Interviews#12

  • 中安 祐太Yuta Nakayasu

    材料プロセス工学、里山資源工学、エコライフスタイル創成学Materials Processing Engineering, Satoyama resource engineering, Eco-friendly lifestyle creation

ライフスタイルの変革を目指し
豊かに生きるを追求する研究者に

あなたがFRISを選んだ理由は。

超学際的研究を実践する私を受け入れてもらえると思ったから。

中安
私のように色々なテーマに興味がある人間も柔軟に受け入れてもらえそうだったからです。FRIS以外はどこにも応募しておらず、もし採用されなかったら住んでいる川崎町で、何かしら仕事を探していたと思います。というのも、私はエネルギー自給率100%を目指して、2年ほど前に仙台市の隣にある川崎町青根地区に移住しました。温泉や水、森林など地域資源が豊富な里山に住まいを移し、地域の共同体に属しながら主観的に研究を深める超学際的な研究アプローチを実践していることもあり、FRISの理念が自分自身の研究スタイルに合っていると思いました。

現在の研究内容について教えてください。

環境汚染の少ない媒体をエネルギーデバイス材料に応用したい。

中安
デバイス材料には通常金属資源を使いますが、材料が作られるまでの過程で多くのCO2を排出し、有限です。そこで、日本では豊富な資源である木質バイオマスを使うことを考えました。バイオマス原料から、水や二酸化炭素などの環境汚染の少ない媒体を用いて材料を合成し、それを蓄電池などのエネルギーデバイス材料に応用する研究を行っています。ナラなどの広葉樹は伐ってもまた萌芽更新するのでマテリアルの畑を作るイメージですね。そこから質の良い炭素材料を作り、デバイスにしようという研究です。伝統技術である白炭にも着目し、新しい工学的利用法を検討しています。

また、日本では古くから、田畑で食料を作り、木材を薪や炭として熱源に川の流れを動力や電力源に活用してきました。これらをただ模倣するのではなく、現代の技術に適合させ現代の生活に合う活用法を生み出す必要があると考えています。里山にある資源を現代の技術に適合する形で利用するための技術を開発するとともに、それらを自らのライフスタイルに取り込むことで、持続可能なライフスタイルの実現を目指しています。バイオマス、生ごみ、排湯などの地域資源の循環システムを構築するために仲間や地域の方々と一緒に研究、技術開発に取り組んでいます。つまり、地域コミュニティの一員として生活をしながら、食料とエネルギーを可能な限り自給し、大学ではエネルギーを地域で自給するための技術的な課題解決のための研究を行っています。
中安 祐太Yuta Nakayasu

学際科学フロンティア研究所 助教。
静岡県出身。2009年東北大学に入学して以来9年間で材料科学、化学工学、環境科学について学び(うち1年間はニュージーランドへ)、博士号を取得。多元研教員を経て2019年4月よりFRISに在籍。地域での持続可能なライフスタイルの実現を目指し、バイオマス原料をエネルギーデバイス材料に応用する研究を行う。

FRISの特徴や魅力を教えてください。

異分野の実力者が多く、多様な着眼点が刺激になります。

中安
異分野の方がごちゃ混ぜになっているところが特徴的ですね。総じて実力の高い研究者が多いため、とても良い刺激になっています。皆さん、研究の業績が優秀ですし、深い考察にもとづいた研究が多いと感じます。また、あらゆる角度から質問を投げかけられるので、新たな視点を与えてもらえて、とても役立っています。私のようにさまざまなことに興味がある人間にとって、着眼点が増えるというのはとても楽しいものです。自分は独自性を見失わないようにしながらも、既存の枠での競争も頑張らなければと思わせてもらえます。また、とにかく自由度が高いですね。どのような研究をしていても何も言われません。

FRISでの経験を生かし、どのような将来像を描いていますか。

客観と主観を使い分ける、真の意味での研究者を目指して。

中安
まず、「研究者」や「科学者」のように職業化された専門家集団ではなく、疑問に思ったことに対し興味を持って探求し、解決したいことがあるときにひとつの手段として「研究」を選べる人間でありたいと思っています。科学制度を根本から見直したポストノーマルサイエンスという概念がありますが、長い歴史の中で研究者は科学を客観視してとらえてきました。でも今は、それだけでは見えるものが限られると言われています。自らの身をその場において主観にも焦点を当てることが必要だと思います。地域の自立を目指す持続可能なシステムについて自ら実践しながら実現に向けて考えていきたいと思っています。

FRISではどんな人が活躍できそうですか。

評価される研究と評価されにくい研究を並行して行う人。

中安
FRISに限って考えたとき、「活躍している」と現代の評価基準で短期的に判断されているとしたら、それはある意味で活躍できていないということかもしれません。かといってそういった評価がないのは不安であるし、研究費の取得も難しいでしょう。したがって、活躍していると思われる研究と、「あいつは一体何をしているんだ?」と思われるような研究を同じ強度で並行してできる人が、学際的な研究を推奨するFRISの存在意義を担保してくれるのだと思います。

FRISをおすすめしたい理由は。

誰にも忖度せずに自由に研究が遂行できるから。

中安
第一はやはり研究費をいただけることです。研究者はみな自分の研究を存続させるために出資者や評価者の意向にある程度沿った公の研究費を獲得しなければなりません。誰にも忖度せず(FRISには忖度しているかもしれませんが…笑)に研究ができる資金というのはとても貴重です。私は研究費を支給していただけるうちに科学の脱制度化を目指し、クラウドファンディングやその他の方法での誰にも忖度しない自由な研究費の調達を目指し、今まで雑費として消費していた自分の給料を研究費として利用するなど工夫しながら、システムそのものに疑いの目を持ち、研究を続けていきたいと思っています。

仙台での暮らしや環境について。

里山地域へ移住し、新たな環境システムの実践をしながら暮らしています。

中安
以前は仙台におりましたが、今は隣の川崎町に暮らしながら、地域の人たちと一緒に新しい環境システムの構築について実践・研究しながら生活しています。大学には45分かけて通勤しています。昨年、仲間と共に山をひとつ購入しました。みんなで木を伐り伝統工法大工の指導の下、葉枯らし乾燥を行い、その木材で一からゲストハウスを作る計画です。

また、天然温泉の排湯を使った新しい熱帯作物の栽培法の確立を目指しカカオ豆の栽培なども行っているところです。狩猟もするのですが、最近チャコという名前の狩猟犬を飼い始め、週末は一緒に山や畑で遊んでいることが多いですね。山仕事をしたり、仲間の農業を手伝ったり、野良仕事をしたり。大学では木質バイオマスを基盤原料とした、有機蓄電池、微生物燃料電池、ナトリウムイオン二次電池など先端デバイスについてもいくつか共同研究を行っています。フィールドでは環境プロジェクトがいくつか並行して動いていますが、豊かな自然の中での生活を楽しんでいます。
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