東北大学
学際科学フロンティア研究所

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宇宙背景放射の偏光面の回転を説明するアクシオンの運動機構の提唱

2021年10月28日『Physical Review Letters』誌に論文掲載、およびプレスリリース

2021.10.29

宇宙マイクロ波背景放射は宇宙に満ちている光であり、高温状態にあったビッグバン宇宙の名残として、宇宙の晴れ上がりと呼ばれる時期から現在までまっすぐに飛んできています。2020年11月、宇宙マイクロ波背景放射の偏光面が回転している兆候があることが、偏光データの解析から指摘されていました。
 
このような効果をもつ新しい素粒子として、超弦理論が予言するアクシオンがあります。非常に軽いアクシオンは宇宙の晴れ上がりの時期以降に運動を始め、この運動によって宇宙マイクロ波背景放射の偏光面が回転することが知られています。しかし、アクシオンが運動を始めたのはなぜこの時期になってからなのか、という疑問が残っていました。
 
東北大学学際科学フロンティア研究所の山田將樹助教、大学院理学研究科の高橋史宜教授および中川翔太大学院生の研究グループは、アクシオンがダークマターのエネルギーによって質量を得ることで運動を開始する機構を提唱しました。
 
この機構によると、宇宙の晴れ上がりの時期と、ダークマターが宇宙のエネルギー密度を支配し始める時期が非常に近いことから、アクシオンが必然的に宇宙マイクロ波背景放射の偏光に影響を与えることになります。
アクシオンがダークマターのエネルギーによって質量を得るには、新しい相互作用が必要になります。本研究では、標準理論の四つの力に加えてもう一つの未知の力が存在し、それに付随する磁気単極子がダークマターとなるシナリオに着目しました。
 
今後の宇宙マイクロ波背景放射の観測とダークマターの探査実験によって機構が確かめられれば、宇宙論および素粒子理論の発展に大きく貢献します。
 
本研究の成果は、米国現地時間の2021年10月28日、学術誌『Physical Review Letters』に掲載されました。


アクシオンの運動 (右上図の赤点) に伴って、宇宙背景放射 (左上図) の偏光面が回転していることを示す模式図。左下のグラフの各線はダークマターと物質 (実線)、輻射 (赤破線)、ダークエネルギー (緑点線)、のエネルギー密度の時間発展を示している。等密度時から現在に近い時期までダークマターと物質が優勢な時期になっており、その時期にアクシオンが運動する。宇宙の晴れ上がりは等密度時の直後におこるため、宇宙背景放射の偏光面が必然的に回転する。

論文情報:
Shota Nakagawa, Fuminobu Takahashi, Masaki Yamada
Physical Review Letters
“Cosmic Birefringence Triggered by Dark Matter Domination”
DOI: 10.1103/PhysRevLett.127.181103
https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.127.181103

プレスリリース:
東北大学
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