東北大学
学際科学フロンティア研究所

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光合成を支える葉緑体チラコイド膜の新しい性質:チラコイド膜を小さな有機物が透過する「通路」を発見

5月18日『Journal of Biological Chemistry』に論文掲載、6月8日報道発表

2018.06.12

プレスリリース
 
新領域創成研究部の児島征司助教は、本学生命科学研究科の高橋秀幸教授および福井大学学術研究院医学系部門の老木成稔教授、岩本真幸助教と共同研究を行い、植物の葉緑体チラコイド膜に糖やアミノ酸等の小さな有機物を非選択的に透過させる「通路」をつくるタンパク質(チャネルタンパク質)が存在することを発見しました。
 
光エネルギーを生物体内で使える化学エネルギーへと変換する光合成の最初の段階はチラコイドと呼ばれる葉緑体の中の袋状の膜で起こります。チラコイドの内側(内腔)にはおよそ80種類のタンパク質が存在し、主として光合成装置の維持・制御に関する重要な働きを担うことがわかってきています。一方で、チラコイド内腔の生理機能に関連する多様な有機物(光合成装置の分解物や酵素補因子*1など)がどのようにしてチラコイド膜を越えて出入りしているかについては、これまで全く注目されておらず、その仕組みは未解明でした。
本グループは代表的な光合成生物種であるシアノバクテリア(Synechocystis sp. PCC 6803)、藻類(灰色藻 Cyanophora paradoxa)、陸上植物(ホウレンソウ Spinacia oleracea)のチラコイド膜を調べた結果、いずれも小さな有機物を非選択的に透過するチャネルタンパク質が存在することを発見し、これらをTPORs (thylakoid pores)と名付けました。
さらに、TPORの詳細機能解析の最初の実例として灰色藻のTPOR(CpTPOR)を精製し、生化学と電気生理学の手法を組み合わせて調べた結果、CpTPORの正体は半径約1.3 nmの小孔を形成するタンパク質であることを突き止めました。本研究は、チラコイド膜が小さな有機物を受動輸送*2する仕組みを持つことを初めて実証し、光合成を支えるチラコイド膜機能の理解に関して「有機物透過」という未開拓の領域が存在することを明確に示しています。今後の研究でチラコイド膜の透過機構をより詳細に解明していくことで、光合成を支える仕組みに関する新たな理解が得られるだけでなく、光合成能力の増強や人為的制御を目指した応用的研究にも新たな手掛かりを提供できると期待されます。
 
本成果は、米国生化学分子生物学会が発行する学術誌Journal of Biological Chemistryの最新号に5月18日付で掲載され、6月8日に本学よりプレスリリースされました。
 
*1. 酵素補因子:酵素の働きに必須な、タンパク質以外の因子のこと。
*2. 受動輸送:生体膜を介した物質輸送のうち、膜を隔てた物質の濃度差を駆動力として起こる輸送形態のこと。
 
論文情報:
Seiji Kojima, Masayuki Iwamoto, Shigetoshi Oiki, Saeko Tochigi, Hideyuki Takahashi, "Thylakoid membranes contain a non-selective channel permeable to small organic molecules", Journal of Biological Chemistry, 293, 7777-7785, (2018)
DOI:10.1074/jbc.RA118.002367
http://www.jbc.org/content/293/20/7777
 
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