東北大学
学際科学フロンティア研究所

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腫瘍組織への血流を介した薬剤評価チップを開発 ~オンチップ血管網を利用した新規腫瘍モデル~

2019年11月8日『Biomaterials』誌に論文掲載、およびプレスリリース

2019.11.12

新領域創成研究部 梨本裕司 助教、京都大学大学院工学研究科 横川隆司 教授らの研究グループは、九州大学大学院医学研究院 三浦岳 教授、熊本大学国際先端医学研究機構 西山功一 准教授らと共同で、生体内の固形癌を模したモデル内に血管を誘導し、血流を介した栄養供給が、腫瘍モデルの成長、薬剤評価に与える影響を評価するシステムを開発しました。
 
腫瘍組織は、その活発な活動を支えるため、周囲から血管を呼びこむことが知られています。腫瘍組織内の血管は、腫瘍のライフラインとして機能するとともに、血管内の流れに伴う化学的、物理的な作用は、腫瘍の活動を支える腫瘍微小環境(tumor microenvironment: TME)を構築する重要な要素です。このような腫瘍微小環境を生体外で再現すれば、生体内の腫瘍の応答を評価可能なモデルが構築できます。
本研究では、研究グループが過去に報告した、血管を誘導するマイクロ流体デバイスをベースとし、乳癌の腫瘍組織のモデルに、血流を模した流れを有する血管を構築することに成功しました。構築された血管を介して、継続的な栄養供給を行った結果、血流を有しない腫瘍モデルと比較して、有意に腫瘍面積が増加、増殖活性が促進されるとともに、細胞死のマーカーが減少しました。さらに、流れの条件下で、薬剤評価を行ったところ、高濃度(50 ng/mL)の薬剤投与では腫瘍面積の減少が観察できましたが、低濃度の投与(5 ng/mL)では、大きな腫瘍面積の減少は観察されませんでした。一方、静置条件での薬剤投与では、低濃度(5 ng/mL)で腫瘍面積の減少が観察されました。これらのことは、流れによる栄養供給が腫瘍の活動に有利に働いていることを意味します。また血流を模した流れの存在により、腫瘍の薬剤応答性が変化したことから、薬剤評価において流れの影響を考慮すべきであることが示唆されました。
腫瘍の活動を支える血管は、腫瘍治療の戦略を立てる上で重要な要素であり、本研究プロジェクトで開発したモデルを利用することで、血管が腫瘍組織に与える影響、また逆に、腫瘍組織が血管に与える影響の評価を調査していくツールとして展開出来ます。今後は、様々な腫瘍モデルへ本技術を展開し、新規に開発された薬剤のスクリーニングツールとして社会に貢献していくことが期待されます。
本研究成果をまとめた論文は2019年11月8日に国際学術誌「Biomaterials」のオンライン速報版に掲載され、11月12日に本学よりプレスリリースされました。
 

図1:腫瘍モデルへの血管導入、培養に利用したマイクロ流体デバイス。
(左)デバイスの写真(青:チャネル(流路))、(右)血管を構築した腫瘍モデルの模式図。両脇のチャネル(Ch. 1 and 3)を利用して腫瘍内の血管に流れが付与可能。
 
論文情報:
梨本裕司、岡田龍、花田三四郎、有馬勇一郎、西山功一、三浦岳、横川隆司
“Vascularized cancer on a chip: The effect of perfusion on growth and drug delivery of tumor spheroid”
Biomaterials
https://doi.org/10.1016/j.biomaterials.2019.119547
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