東北大学
学際科学フロンティア研究所

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記憶の存続時間をがん遺伝子が調節する

2020年2月26日『Journal of Neuroscience』誌に論文掲載、および3月18日プレスリリース

2020.03.18

記憶の存続は、数秒で忘れてしまうものから数十年にわたって憶えているものまで、非常に大きなばらつきがあります。記憶が定着するためには、記憶の長期化というプロセスが重要です。アルツハイマー型認知症などの記憶障害は、記憶の長期化にまず問題が生じることが多く、この仕組みを理解することは喫緊の課題です。ショウジョウバエはたった一分間の学習で餌の匂いを数日間にわたって記憶することが知られており、記憶の長期化の仕組みを研究する上で良いモデルです。

今回、新領域創成研究部の市之瀬敏晴助教(本学生命科学研究科兼任)、生命科学研究科の谷本拓教授らのグループは、MAPKというがん遺伝子の働きが、記憶が長期化されるときに促進されることを発見しました。さらに、ドーパミンという脳内分泌物質が、 そのスイッチを入れる役割を果たしていることを突き止めました。MAPKや、ドーパミンを受け取る遺伝子が抑制されたハエは、記憶を長期化することができません。今回の発見は、神経細胞でのMAPKの働きと、その制御機構を明らかにしたといえます。

研究結果は2020年2月26日にJournal of Neuroscience誌に掲載され、3月18日に本学よりプレスリリースされました。本研究は、文部科学省科学研究費補助金の支援を受けて行われました。
 
左:記憶を形成するケニオン細胞(マゼンタ)において、リン酸化型(活性型)MAPKタンパク質(水色)を可視化した。学習によってリン酸化型MAPKが増大すること、またその増大にDop1R2が必要であることを発見した。
右:学習によってドーパミンが放出され、Dop1R2とRafを介してMAPKを活性化し、記憶を安定化する。
 
論文情報:
Huan Sun, Tomoki Nishioka, Shun Hiramatsu, Shu Kondo, Mutsuki Amano, Kozo Kaibuchi, Toshiharu Ichinose, Hiromu Tanimoto, "Dopamine receptor Dop1R2 stabilizes appetitive olfactory memory through the Raf/MAPK pathway in Drosophila", Journal of Neuroscience, vol. 40, 2020
DOI: 10.1523/JNEUROSCI.1572-19.2020
https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.1572-19.2020
 
プレスリリース:
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