東北大学
学際科学フロンティア研究所

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Li内包フラーレンの超原子電子軌道の直接観察に成功 〜新たな有機エレクトロニクスへ〜

「The Journal of Physical Chemistry Letters」に論文掲載、およびプレスリリース

2021.08.18

リチウム(Li)内包フラーレン(Li@C60)は、炭素原子(C)60個がサッカーボール状に連なった分子の内部にLiイオンを内包した構造を持ち、次世代の有機エレクトロニクス材料として期待されている材料です。近年、Li@C60に関して、超原子電子軌道(SAMO)と呼ばれる、分子外部に大きく広がった特異な電子軌道が注目されています。薄膜などのLi@C60の集合体では、SAMOは固体全体に広がることができるため、この軌道を利用した電子の伝導が実現できれば、高効率の有機トランジスタや有機太陽電池など、新たな有機エレクトロニクスの可能性が拓けます。
金属内包フラーレンは、フラーレン研究の初期から長く研究が続けられてきましたが、材料の高純度化が非常に困難であり、特に高純度のLi@C60の薄膜はこれまで実現できていませんでした。新領域創成研究部の上野裕助教は、筑波大学およびイデア・インターナショナル株式会社との共同研究において、材料と蒸着技術の最適化により、高純度のLi@C60薄膜の作製に初めて成功しました。この薄膜を走査トンネル顕微鏡で観察したところ、Li@C60が極めて均一に、秩序的に配列している様子が分かりました。また、このような高い純度と秩序構造を持つLi@C60薄膜の電子状態を分子レベルで計測した結果、Li@C60のSAMOが、理論による予測通りに、薄膜全体に広がっていることを突き止めました。

本研究成果は、いまだ始まったばかりである分子固体のSAMOに対する基礎研究における重要な第一歩であり、SAMOを利用した新原理に基づく有機エレクトロニクスの開拓につながることが期待されます。研究内容をまとめた論文は8月11日に「The Journal of Physical Chemistry Letters」に掲載され、8月18日に筑波大学および本学よりプレスリリースされました。
 
論文情報:
Naoya Sumi, Artem V. Kuklin, Hiroshi Ueno, Hiroshi Okada, Tomoyuki Ogawa, Kazuhiko Kawachi, Yasuhiko Kasama, Masahiro Sasaki, Pavel V. Avramov, Hans Ågren, Yoichi Yamada,
"Direct Visualization of Nearly-Free-Electron States Formed by Superatom Molecular Orbitals in Li@C60 Monolayer", The Journal of Physical Chemistry Letters
DOI: 10.1021/acs.jpclett.1c02246
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.jpclett.1c02246
 
プレスリリース:
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