東北大学
学際科学フロンティア研究所

公募研究

国際共同研究支援 報告

柿沼 薫(新領域創成研究部 助教)

アメリカ・ニューヨーク、コロンビア大学 NASA宇宙科学研究所

期間/2019.1.15-2.15

 私は気候変動に伴う移民(人々の大規模な移動)の研究に取り組んでいます。移民研究は、これまで主に社会科学の分野で大いに発展してきましたが、近年は自然環境要因との関係や将来の気候変動がどのように移民へ影響するのか、といったトピックにも注目が集まっています。しかしながら、気候変動と移民の関係を明らかにするためには、社会科学と自然科学両アプローチが必要となり、日本国内はもちろん、国際的にも取り組んでいる研究機関は少ないと言えます。そこで本助成を受け、気候変動に伴う移民研究に取り組んでいる数少ない研究所、米国ニューヨークにあるコロンビア大学(写真1)へ滞在しました。コロンビア大学およびNASA宇宙科学研究所に在籍するMichael Puma博士(写真2)は、気候変動と食糧や移民の関係について研究実績があり、昨年から米国や欧州の複数の研究機関が参加する研究プロジェクトを実施しています。現在はとくに、中東やアフリカに注目して、気候変動を始めとした自然科学的要因と、政治や紛争を含む社会科学的要因から、移民のモデル構築を目指しています。私の滞在中は、私達の共同研究に関する論文構成についての議論はもちろんのこと、彼のプロジェクトの最新の成果やデータセットの情報、世界における気候変動と移民に関する研究の動向などの情報を得ることができました。私は2016−2018年に米国へ滞在していましたが、それからおおよそ1年経って、関連する分野の研究が大きく進展しており非常に驚きました。これほど急速に米国の研究者が成果を出しつつあるという状況に、大きな刺激を受けました。これらの成果は、まだ学会や論文では未発表のため、日本にいるだけではその動向を知ることはできなかったでしょう。そういう意味でも、今回コロンビア大学に落ち着いて滞在できたことで、とても大きな収穫を得られました。

また、コロンビア大をはじめ米国に滞在する研究者らと、とくにアジア地域の災害と人の移動について議論することもできました。これらの議論を通じて、私の研究の次のステップを決めることができました。さらに、ロックフェラー財団によって設立されたPopulation Councilを訪問し、在籍する研究者から気候変動と移民の研究に関して情報を収集しました(写真3)。ニューヨークには国連があることも手伝ってか、気候変動や移民、持続可能な開発目標に関連した研究を実施している研究者が多いように思います。彼らが今どういうプロジェクトを立ち上げようとしているのか、その動向を知ることができたのもまた大きな収穫となりました。

滞在期間中は、コロンビア大学のEarth Instituteのスペースをお借りし、論文執筆にも励みました。とても静かな環境で机も広く、非常に快適な研究環境でした(写真4)。また、同じフロアには気候変動研究に携わる日本人研究者が在籍しており、ときおりお話を伺うことができました。彼女は1970年代からニューヨークへ来て研究者として活躍されていて、私が尊敬する研究者の一人です。彼女の研究内容はもちろん、これまでの人生の経緯を伺うことで、研究者としてどう生きていくか、という大きなテーマを考えるきっかけとなりました。

1年ぶりにコロンビア大を滞在したことで、気候変動と移民研究の急速な進展、また今後もその傾向は続きそうなことを肌で感じました。この滞在は、現在取り組んでいる研究の進展や、今後の研究方針を決められたという成果だけでなく、私に適度な緊張感と、研究を遂行するための大きなエネルギーも与えてくれました。こういった情報や動向は、日本にいてはなかなか伝わってきません。落ち着いて米国に滞在する機会をいただけたからこそ、気候変動と移民研究の今を知ることができました。支援をしてくださった東北大学への心から感謝申し上げます。この経験を糧に、今後も一層研究に精進して参ります。
 
 
 
写真1(左):コロンビア大学
写真2(右):Puma博士のオフィスにて
 
 
 
写真3(左):Population Councilを訪問
写真4(右):滞在中お世話になったコロンビア大学Earth instituteの机
 
 
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