東北大学
学際科学フロンティア研究所

公募研究

海外研究集会等発表支援 報告

丹羽 伸介(新領域創成研究部 助教)

2017 American Society for Cell Biology(ASCB)/European Molecular Biology Organization(EMBO Meeting)
派遣先/アメリカ・フィラデルフィア

期間/2017.11.27-12.7

海外研究発表支援の助成を受けて、EMBO(ヨーロッパ分子生物学機構)とASCB(アメリカ細胞生物学会)が共同開催した年会に参加しました。
アメリカ細胞生物学会は細胞骨格、細胞内輸送、細胞分裂、分子モータータンパク質といった研究分野の研究者たちが中心の学会です。年会では次の年にCell誌、Nature Cell Biology誌、Journal of Cell Biology誌といった細胞生物学の一流誌に掲載されそうな重要な成果が数多く発表されるので、参加すると世界の細胞生物学の動向をいち早く知ることができます。私は博士課程の学生だった頃からほぼ毎年参加し続けています。今年は初めてEMBOとの共催で行われたため、例年よりも欧州からの参加者が多いように感じました。
 
新しい流れとしては神経科学分野で線虫(Caenorhabditis elegans)をモデルとして用いてきた研究者の参加が増えていることが挙げられます。C.elegansは古くから神経発生、シナプス形成、行動などといった現象にどのような遺伝子が関与しているのかを解析するために用いられてきた重要なモデル生物です。これらの分野の研究者は主にアメリカ神経科学会やアメリカ遺伝学会で活動してきました。しかし、神経発生やシナプスの形成などに関与する遺伝子を決定し、次にその遺伝子がコードするタンパク質の機能を深く追求していくと、神経細胞を構成する細胞骨格を制御するメカニズムや分子モーターによる細胞内輸送のような細胞生物学で扱われてきた現象が重要であることがわかってきました。今大会では私のポスドク時代のPIであるKang Shen博士(スタンフォード大学教授)がシンポジウムで講演を行い、Kangのポスドク時代のPIであるCori Bargmann博士がキーノートの講演を行いました。共にC.elegansをモデル生物として用いることで神経科学分野で世界をリードしている研究者です。
 
研究発表は一緒に研究をしている小日向寛之さん(修士1年)のポスターと、私自身のポスターの2本立てでした。自分が学生の頃から参加して第一線の雰囲気を体験できたことがその後の研究にプラスになったと感じているので、今回は小日向さんにも参加してもらうことにしました。小日向さんのポスターではC.elegansで用いることができる新しいマーカー遺伝子の報告をし、私のポスターではBLOC-1関連複合体(BORC)が神経細胞においてシナプス小胞の軸索輸送に関与していることを報告しました。
第一線で活躍する研究者たちと交流することもできました。Kang Shen博士とは一緒に昼食に行き、フィラデルフィア名物のチーズステーキを食べながら最近の研究結果を討論しました。「ポスドク時代にKangのところで線虫で見つけたメカニズムがヒトの遺伝性神経疾患で破綻していることを見つけたよ」と伝えると、「おれたちは正しいことをやっていたんだ」と楽しそうにしていました。私がラボを去ってから3年でKangの研究室では新しい研究プロジェクトがいくつも動き始めているようでしたが、理由を尋ねると「同じことをずっとやっているとHHMI(アメリカのトップクラスの生命科学分野の研究者が得られる大型グラント)の更新の審査では高い評価を得られない。新しい分野を切り拓くような成果が要求される。新しいことにどんどん取り組まなくてはいけない」と話していたのが印象的でした。Kang Shen研究室のポスドク時代の同僚たちも参加しており、彼らとも楽しい時間を過ごすことができました。元同僚の1人からは「良いジャーナルに論文が1つ出て、もう一つが投稿中だから、ジョブハントしている」という話を聞きました。また、Yale大学のAssistant Professorになった元同僚から「来年、細胞骨格のセミナーに来てよ」と誘われ、良い刺激を受けることができました。
 
最後に今回の研究発表にご支援をいただいた海外研究集会等発表支援プログラムに感謝いたします。
 
 

映画「ロッキー」で有名なフィラデルフィア美術館からの風景       フィラデルフィア市庁

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