東北大学
学際科学フロンティア研究所

公募研究

海外研究集会等発表支援 報告

遠藤 晋平(新領域創成研究部 助教)

The 26th International Conference on Atomic Physics, ICAP 2018/Humboldt Kolleg, "Controlling Quantum Matter: From ultracold Atoms to solids"
開催地/スペイン・バルセロナ/リトアニア・ヴィリニュス

期間/2018.7.21-8-7

この度私は、平成30年度若手研究者海外研究集会等発表支援プログラムの支援を受け、2018年7月21日から8月7日にかけて、2つの国際会議に参加し研究成果のポスター発表を行いました。
 
1つ目の国際会議「The 26th International Conference on Atomic Physics(ICAP 2018)」(7月22日-27日)は、バルセロナの国際会議場Palau de Congressos de Barcelonaで開催されました。この会議は、参加者数が1000名弱にもなる、原子・分子・光物理に関する世界最大規模の国際会議です。この分野では、過去20年で4回 合計11人がノーベル物理学賞を受賞しており、現在も研究の勢いが年々増している最先端科学分野の一つです。特に、原子・分子・光を使って、固体中の電子、化学反応や、天体現象・ブラックホールの振舞いをシミュレーションしようという研究の発表が盛んに行われていました。
この会議で、私は研究成果のポスター発表(タイトル「Universal few-body correlations in a Bose polaron」)を行いました。この研究は、固体中の電子が固体の音波とが結合して生じるポーラロン現象と、原子気体において2016年に観測されたポーラロン現象との類似性・相違点を明らかにする研究です。原子気体におけるポーラロン現象を従来の枠組みを超えた理論手法で解析し、3体相関、4体相関までを取り込んだ計算をしたところ、この系では3体・4体相関が非常に重要であることが明らかになりました。固体中の電子系ではこのようなことはなく、原子気体特有の性質であると言えます。このポーラロン現象に関しては、現在多くの研究者が精力的に研究を行っており、本会議でも原子気体のポーラロン現象に関する発表が他に2件ありました。互いの研究を発表しあい、彼らとつっこんだことまで議論することができました。
また、この会議では、最先端の研究成果の発表に加え、この分野の6名のノーベル賞受賞者による、研究の現状・今後に関するパネルディスカッションも開催されました。彼らが基礎研究、特に予算や計画ではなく純粋な好奇心に駆動された研究の重要性を説いていたのが印象的でした。
 
2つ目の国際会議「Humboldt Kolleg “Controlling quantum matter: From ultracold atoms to solids」(7月29日-8月2日)は、リトアニアの首都ヴィリニュスで開催されました。この会議はICAP2018とは異なり、参加者80名程度の小規模なものですが、参加者の多くがフンボルト賞受賞者やフンボルト財団のフェローで、原子・分子・光物理と固体物理の著名な研究者が多く参加(ノーベル賞受賞者1名も参加・発表)する、濃密で質の高い会議でした。この会議でも、上記と同じタイトル・内容のポスター発表を行いました。原子気体の実験家や固体電子系の研究者に発表を聞いていただき、特に固体中のポーラロン現象との関連などについて議論できたのが非常に有益でした。
これらの会議後の8月3日-8月6日は、フランクフルト近郊に滞在し、ハイデルベルグ大学と加速器施設GSIを訪問しました。ハイデルベルグ大学には、現在共同研究を進めているWeidemuller教授のグループがある。彼らのグループを訪問し、ポーラロン現象における3体相関・4体相関を明瞭に見る方法に関する共同研究を進展させることができました。また、ダルムシュタッドにあるGSIで原子核物理の研究を行う斎藤教授を訪問しました。斎藤教授の行うハイパー原子核(不安定な中間子であるΛ粒子を含む原子核)の少数多体系と、私が行ってきた原子の少数多体系に関する議論を行い、現在行っている原子と原子核の少数多体系の共通性・普遍性を明らかにする研究に有益な情報を得ることができました。リトアニアから日本へ帰国する際には、必ずフランクフルト空港等のハブ空港を経由する必要があり、今回のように帰路でフランクフルト空港で即日トランジットせず、数日程度滞在してハイデルベルグ大学とGSIへの訪問を行うことで、非常にコスト効率良く、会議での研究成果発表と現在の研究の遂行を同時に行いました。
 
以上のように、今回の出張では、2つの質の高い国際会議でのこれまでの研究成果発表と、現在の研究の遂行、その双方を行うことができ、非常に有益なものでした。このような貴重な機会を与えて下さった若手研究者海外研究集会等発表支援プログラムに心から感謝致します。

ICAP2018の参加者集合写真

Humboldt Kollegの参加者集合写真

PAGE TOP