学際科学フロンティア研究所活動報告書_令和3年度
127/158

―124―令和三年度の成果概要は、二つの経験依存的な行動の変化を司る神経回路メカニズムを、モデル生物であるショウジョウバエを使って解明したことです。一つ目は、匂いと砂糖報酬や電気ショック罰といった価値刺激との連合学習についてです。匂い連合記憶はキノコ体という神経構造に形成されることはわかっていましたが、キノコ体のどの領域からの情報出力が記憶の維持や想起に重要であるかは大部分が謎でした。本研究ではキノコ体からの指令を担う数十個の神経細胞を個別に阻害し、行動を解析することで、記憶の維持や想起に重要である神経細胞を網羅的に同定しました。さらに、その細胞構造と比較することで、特定の記憶を処理する固有の神経投射パターンを明らかにすることに成功しました1。二つ目は、アルコール摂取を司る神経回路についてです。ショウジョウバエはアルコールをよく好み、アルコールを与えると、その摂取量が日に日に増大するアルコール依存症モデルとして知られています。本研究では、アルコールの繰り返し摂取がキノコ体におけるD1型ドーパミンの受容体の量を増大させ、アルコール報酬に対する感度を上げることで摂取量の増大を引き起こすことを解明しました2。以上、二つの成果により、連合記憶とアルコール依存を制御する神経メカニズムが解明され、その類似点と相違点が明らかになったと言えます3,4。参考文献 1.*+Ichinose T, +Kanno M, Wu H, Yamagata N, Sun H, Abe A, *Tanimoto H. (2021) “Mushroombody output differentiates memory processes and distinct memory-guided behaviors”. Curr. Biol.31, 1-9. doi: 10.1016/j.cub.2020.12.032.2.Kanno M, Hiramatsu S, Kondo S, Tanimoto H, *Ichinose T. (2021) “Voluntary intake ofpsychoactive substances is regulated by the dopamine receptor Dop1R1 in Drosophila”. Sci. Rep.11(1):3432. doi: 10.1038/s41598-021-82813-0.3.市之瀬敏晴 (2021)「飲酒量はなぜ増える?-ショウジョウバエから探る神経メカニズム」ババイイオオササイイエエンンススととイインンダダスストトリリーー((BB&&II))4.市之瀬敏晴 (2022)「ショウジョウバエに学ぶ飲酒の脳内メカニズム」MMeeddiiccaall SScciieenncceeDDiiggeesstt市之瀬敏晴(新領域創成研究部/生命・環境) 連合学習とアルコール依存を制御する神経メカニズム

元のページ  ../index.html#127

このブックを見る