学際科学フロンティア研究所活動報告書_令和3年度
128/158

―125―近年、母親の肥満や2型糖尿病は、子が健康的な生活をしていても糖尿病リスクを増加させることが分かっており、母親から子への肥満と糖尿病伝染の悪循環は、個人の健康のみならず、社会経済への大きな負担もたらす。 今年度の研究で、母親の妊娠中の運動が子の肝臓における糖代謝を向上させることで、将来肥満になりにくくなる分子機構を解明した。妊娠中の運動は、マウスとヒトの胎盤でスーパーオキシドジスムターゼ3(Superoxide dismutase 3; SOD3)の発現を増加させており、この胎盤由来SOD3が母親の運動の有益な効果を子へ伝達していることを実証した。SOD3は母体内で胎子の肝臓に働きかけ、エピジェネティクス改変の一種であるDNA脱メチル化によって、主要な糖代謝遺伝子の発現を増加し、肝機能を改善させていた。また日常の活動レベルが高いヒト妊婦では、血中と胎盤でSOD3の量が上昇しており、妊娠期運動効能のマーカーとして利用できることが示唆された。本研究は、妊娠期運動が子の将来的な健康に及ぼす根底的な分子機構を実証し、運動応答性臓器としての新たな胎盤機能の存在を提唱した。胎盤を通じて子の将来の健康を増進できれば、これまでにない次世代医療の実現に繋がる可能性がある。 参考文献 [1]Kusuyama J, Alves-Wagner AB, Conlin RH, Makarewicz NS, Albertson BG, Prince NB, KobayashiS, Kozuka C, Møller M, Bjerre M, Fuglsang J, Miele E, Middelbeek RJW, Xiudong Y, Xia Y, GarneauL, Bhattacharjee J, Aguer C, Patti ME, Hirshman MF, Jessen N, Hatta T, Ovesen PG, Adamo KB, Nozik-Grayck E, Goodyear LJ. Cell Metabolism. 4;33(5):939-956.e8. 2021.楠山譲二(新領域創成研究部/生命・環境) 妊娠期運動による生活習慣病予防効果の次世代伝播機構

元のページ  ../index.html#128

このブックを見る