学際科学フロンティア研究所活動報告書_令和3年度
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―126―神経毒テトロドトキシンは最も有名な自然毒の一つで、複雑な化学構造と強力な毒性を持つ。フグやイモリなど多様な生物種に含まれるが、自然界でどのようにして生産されるか(生合成)は不明である。質量分析装置を駆使した化合物探索によって、テトロドトキシン含有イモリから新規性の高い骨格構造をもつ天然有機化合物を2種発見した。分光学的手法により化学構造を解析し、化合物の構造を基に陸上テトロドトキシンの生合成経路を推定した[1]。 サリニポスチンは抗マラリア原虫活性とリン酸トリエステル構造を持つ天然有機化合物である。リン酸トリエステル構造は3例しか報告例のなく希少と考えられてきたが、サリニポスチン生合成遺伝子が実は多種の放線菌に存在することを見出し、共同研究者との網羅的なバイオインフォマティクス解析によりその分布を明らかにした[2]。また、リン酸トリエステル化合物の効率的な探索法を構築することで、サリニポスチンに類する新規化合物を得た。 参考文献[1]Y. Kudo, C. T. Hanifin, Mari Yotsu-Yamashita, Organic Letters 2021, 23, 3513–3517.[2]K. E. Creamer, Y. Kudo, B. S. Moore, P. R. Jensen, Microbial Genomics 2021, 7, 000568.触媒を用いたタンパク質の化学修飾反応の開発に取り組んだ。低分子触媒ATTO465が一電子酸化触媒として機能し、タンパク質のチロシン残基を効率的に修飾することを明らかにした。HaloTag技術により細胞内の特定座標にATTO465を配置し、タンパク質を修飾した。修飾されたタンパク質をプロテオミクスによって解析したところ、ATTO465の周辺6 nmの触媒近接空間でタンパク質修飾反応が完結することが分かった1。さらに、一電子酸化触媒を用いた手法に加えて、一重項酸素を活用したタンパク質のヒスチジン残基を修飾する反応を開発した2,3。ナノメートル単位の近接依存性を利用したこれらのタンパク質修飾技術は、未だ不明な点の多いタンパク質間相互作用を解明する新技術として有用である。 参考文献 [1]M. Tsushima, S. Sato,* K. Miura, T. Niwa, H. Taguchi, H. Nakamura,*, Chem. Commun. 2022, 58,1926-1929. [2] K. Nakane, S. Sato,* T. Niwa, M. Tsushima, S. Tomoshige, H. Taguchi, M. Ishikawa, H.Nakamura, J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 20, 7726–7731. [3] K. Nakane, T. Niwa, M. Tsushima, S.Tomoshige, H. Taguchi, H. Nakamura, M. Ishikawa, S. Sato,* ChemCatChem. accepted.工藤雄大(新領域創成研究部/生命・環境) 佐藤伸一(新領域創成研究部/生命・環境) 神経毒テトロドトキシンと抗マラリア活性化合物に着目した 新たな天然有機化合物の探索とその構造解析 触媒/酵素近接依存性タンパク質修飾法の開発

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