学際科学フロンティア研究所活動報告書_令和3年度
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―137―2030年までにすべての人々が普遍的かつ衡平な水へのアクセスを達成すること(SDG6.1)は世界における重要な課題である。自宅に水道が通っていない地域ではしばしば女性が水を運ぶ役割を担っており、水の安全保障における男女格差が指摘されている。しかしながら、こういった指摘は地域スケールの研究が中心となり、全球における水の安全保障上の男女の違いは評価されてこなかった。本研究では、水ストレスと水アクセスの状況から脆弱な水環境を定義し、世界における2000年以降の水脆弱人口を男女別に評価した。その結果、アフリカでは脆弱な水環境下の人口が増加傾向にあることがわかった。特にアフリカの地方部では、脆弱な水環境下に女性がより多く、かつ水を運ぶ役目を女性が担っていた。本研究により、水の安全保障上の男女格差が、特にアフリカで大きいことが明らかになった。普遍的かつ衡平な水アクセスを実現するためには、全球水資源評価に性別、年齢別の人口情報を統合することの重要性も提示した。 戦争に代表される集団間の闘争がどのような要因によって駆動されているのかは、「争いは人間の本性に根ざしているのか」という古典的な問いとも関連し、人文・社会科学の広い領域で研究が蓄積されてきた。特に先史時代の闘争は、こうした問いに直接答えるものと期待されているが、十分なデータを集めることが難しく、いくつかの例外を除きこれまで実施されてこなかった。本研究では、弥生時代中期の北部九州を対象に、文献調査から、当時の「ひつぎ」である「甕棺」約1万個をこれを人口の指標として、人口密度を計算するとともに、全人骨のうち、受傷人骨の頻度を計算し、これを争いの頻度の指標とした。結果、人口密度が高い時期・地域において、受傷人骨の頻度が増加する傾向がみられた。本研究は、南山大学、岡山大学、国立歴史民俗博物館との共同研究である。 参考文献 [1] Nakagawa, T., Tamura, K., Yamaguchi, Y., Matsumoto, N., Matsugi, T., & Nakao, H. (2021). Population pressure and prehistoric violence in the Yayoi period of Japan. Journal of Archaeological Science, 132, 105420. 柿沼薫(先端学際基幹研究部/人間社会) 田村光平(新領域創成研究部/人間・社会領域) 世界における水の安全保障上の男女格差 弥生時代北部九州の人口圧と集団間闘争

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