学際科学フロンティア研究所活動報告書_令和3年度
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―143―【研究背景】現在の宇宙は暗黒物質と呼ばれる我々の物理では説明できない正体不明の成分で満たされていることが観測によって明らかにされている。「アクシオン」は標準理論を超えた素粒子物理から予言される未発見の仮想粒子で暗黒物質の候補となっている。アクシオンが現在の宇宙の暗黒物質であるかどうかを検証するためには、宇宙初期におけるアクシオンの生成と進化の過程を詳細に知る必要がある。 【研究方法】私の研究では、主に解析計算およびコンピュータによる数値シミュレーションを用いて、アクシオンの初期宇宙進化の解明に挑む。特に、3次元空間を格子に離散化し、その上の動的な古典場の自由度としてアクシオン(スカラー場)、ゲージ場(ベクトル場)、を置き、各格子点上で運動方程式を解くことで場の発展を解析する。 【結果及び考察】素粒子論から動機づけられるQCDアクシオンという模型に着目し、背景にある輻射(プラズマ)成分や時空のゆらぎを含めてシミュレーションを行なった結果、アクシオンの密度ゆらぎが成⾧する過程を新たに発見した(文献[1])。これは、アクシオンミニクラスター、アクシオンスターといった特徴的な構造が形成される可能性を示しており、重力レンズ観測などで検証可能となる。また、アクシオンとゲージ場の相互作用系に、新たにヒッグス場を加えたモデルについても解析を行い、短期間のインフレーション(宇宙の指数関数的膨張)が生じることを初めて示した(文献[2])。これは、高エネルギー物理でしばしば予言される、モジュライなどの宇宙の残存物の問題を解決する新しいシナリオになりうる。参考文献 [1]N. Kitajima, K. Kogai, Y. Urakawa, “New scenario of QCD axion clump formation. Part I. Linearanalysis”, JCAP 03(2022)039[2]N. Kitajima, S. Nakagawa, F. Takahashi, arXiv:2111.06696(Physical Review D誌に投稿中)北嶋 直弥(新領域創成研究部/先端基礎科学) アクシオン暗黒物質の初期宇宙進化に関する研究

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