学際科学フロンティア研究所活動報告書_令和3年度
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―144―RuCl3はKitaev スピン液体実現の最有力候補の1つであり、スピンの分数化の兆候が様々な 実験から示唆されているが、低温においてジグザグ型反強磁性秩序を示す。これは RuCl3 の擬スピンハミルトニアンが Kitaev 項のみならずハイゼンベルグ相互作用や非対角項などを含むことによる。種々の実験結果の理解や Kitaev スピン液体の安定的な実現のためには擬スピンハミルトニアンを正確に決定する必要があるが、パラメータの値や符号については多くの異なる主張が乱立している。本研究では新規に開発された Tender X 線領域の共鳴非弾性 X 線散乱 (RIXS) 装置を用い、 RuCl3 単結晶の Ru L3 吸収端 (2.84 keV) における RIXS 測定を行った。実験結果と拡張 Kitaev-Heisenberg 模型に対する RIXS 強度の理論計算との詳細な比較から、擬スピンハミルトニアンのパラメータを決定した。参考文献 [1]H. Suzuki et al., Nat. Commun. 12 4512 (2021)我々はこれまでに、産業別 CO2 総排出量が最も多いとされる従来の製鉄業界を見直すべく、還元剤であるコークスに替わりシュウ酸を用いた次世代製鉄法を提唱してきた。[1] このときに副生したCO2 をシュウ酸として再生すべく、今年度は CO2 の還元体であるギ酸を原料とした脱水素二量化によるシュウ酸合成を検討した。 ギ酸ナトリウムの加熱によるシュウ酸合成において、過去の報告では塩基として炭酸ナトリウムや水素化ナトリウムが用いられているが、前者は炭酸塩由来の CO2 生成が、後者は安全面から本構想に不適切であった。これに対し、塩基として金属水酸化物を用いた際に、炭酸ナトリウムよりも高い活性を示すことが明らかとなった。計算科学を用いて反応機構について精査した結果、アニオンのみならずカチオンの種類によっても反応性が大きく変化することが示唆された。参考文献 [1]P. Santawaja, S. Kudo, A. Mori, A. Tahara, S. Asano, J. Hayashi, ACS Sus. Chem. Eng. 2020, 88,13292-13301.[2]P. Santawaja, S. Kudo, A. Mori, A. Tahara, S. Asano, J. Hayashi, ISIJ International 2021, Advanceonline publication (DOI: 10.2355/isijinternational.isijint-2020-726).鈴木博人(新領域創成研究部/先端基礎科学) 田原淳士(新領域創成研究部/先端基礎科学領域) Ru L3 端共鳴非弾性X線散乱によるKitaev磁性体RuCl3の ギ酸塩の脱水素二量化によるシュウ酸合成における塩基の効果 擬スピンハミルトニアンの決定

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