学際科学フロンティア研究所活動報告書_令和3年度
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―150―8.5 学際研究共創プログラム(令和3年度終了課題) ペプチド/タンパク質の凝集体の蓄積は、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋委縮性側索硬化症など多くの難治性神経変性疾患に共通する形態的特徴であり発症原因として知られるが、未だ血液・細胞由来成分などの生体夾雑系の高感度な検出法は確立されておらず、今後ブレークスルーとなるin situペプチド/タンパク質の凝集体検出法の確立が待たれている。そこで理論と実験アプローチを融合することにより、アミノ酸残基(システイン、チロシン)特異的修飾技術を活かし、血液・細胞由来成分などの生体夾雑系でペプチド/タンパク質の凝集状態を高感度に検出する方法を新たに確立し、生体内不良化タンパク質の蓄積の理解の一端を目指している。本年度は理論的にペプチド/タンパク質の凝集体を検出し易い分子を絞り込み、分担者の佐藤がこれまで行ってきた有機合成化学の手法で開発したアミノ残基修飾剤の実験的知見を基盤として分子設計を行い、ラベル化剤特性の評価を行った。その結果、タンパク質混合物において変性タンパクを検出することに成功した。また、MDシミュレーションを活用し修飾剤により修飾されるチロシン残基の露出度とタンパク質表面の変性による構造変化との相関について明らかとなった。常松友美(学際科学フロンティア研究所兼務)、奥村正樹(学際科学フロンティア研究所) 睡眠の質や体内時計は加齢によって変化することが知られているが、そのメカニズムは不明である。一方、加齢により、正しくフォールディングできないタンパク質の不良化の頻度が増加することが知られている。これら不良タンパク質の蓄積は様々な神経変性疾患に関与する。そこで本研究では、不良化タンパク質を若い野生型マウスの脳内に投与することで加齢を摸倣し、加齢による睡眠変化メカニズムを解明することを目的とした。本研究では、アルツハイマー症の原因タンパク質として知られているアミロイドベータ(Aβ)の不良化状態であるアミロイド線維を投与し、睡眠覚醒ステージや脳波が変化するかどうかを検討した。まず、免疫組織化学的手法を用いて、投与したAβが脳内で線維化アミロイドを形成していることを確認した。次に、睡眠覚醒ステージの変化を経時的に解析したところ、徐々にレム睡眠合計時間が減少することを見出した。また、シータ波の成分も減少した。本研究は、成果をまとめて現在投稿準備中であるが、研究期間内にアルツハイマー症、パーキンソン病と睡眠という内容で総説を発表した1。参考文献 [1]Matsumoto S. and Tsunematsu T. (2021) Biology 10(11), 1127.8.5 学際研究共創プログラム(令和3年度終了課題)馬渕拓哉(学際研)、佐藤伸一(学際研)、奥村正樹(学際研) 不良タンパク質を用いた加齢の摸倣による睡眠変化メカニズムの解明 不良タンパク質の高感度検出手法の確立

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