学際科学フロンティア研究所活動報告書_令和4年度
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私たちが長年にわたり研究してきた分子モータータンパク質KIF1Aはキネシンスーパーファミリーのモータータンパク質で、軸索内でシナプス小胞の前駆体を輸送する。ヒトKIF1Aの変異は、KIF1A関連神経障害(KAND)と呼ばれる神経変性疾患群の原因となる。KANDの変異はほとんどがde novoで常染色体優性遺伝であるが、野生型KIF1Aモーターの機能が変異型KIF1Aとのヘテロ二量体化によって阻害されるかどうかは不明であった。ここでは、CRISPR/cas9技術を用いてKANDの線虫モデルを確立し、ヒトKIF1A変異が軸索輸送に及ぼす影響を解析した。今回作成した線虫モデルでは、ヘテロ接合体、ホモ接合体ともに軸索輸送の低下がみられた。疾患モデルを用いたサプレッサー・スクリーニングによりヒトKIF1Aの運動活性を回復させる変異が同定された。さらに、野生型と変異型KIF1Aからなるヘテロ二量体モーターの運動性を解析するためのin vitroアッセイを開発した。その結果、変異型KIF1Aはヘテロ二量体モーターの運動性を著しく低下させることがわかった。以上の解析で、なぜ常染色体優性で疾患が起こるのかが示唆された。 参考文献 [1] Anazawa Yuzu#, Kita Tomoki# (# equal contribution) et al. (2022) PNAS 119 (32) e2113795119 ―119―ブラックホールジェットの謎の解明に向け、多角的な研究を展開した。ジェットで引き起こされる宇宙最大の爆発現象ガンマ線バーストについて、台湾国立中央大学、イタリア国立天体物理学研究所との共同研究で、チリにある2つの大型望遠鏡を使って世界初の電波・可視偏光同時観測を成功させた。観測データと理論計算から、ジェットの隠れたエネルギーを推定できた[1]。また偏光観測から爆発によって生じる磁場の構造も探れることを示した[2]。ジェットの粒子の起源について、観測と整合的な理論メカニズムを発見した[3]。 参考文献 [1] Y. Urata, K. Toma, S. Covino, K. Wiersema, et al., “Simultaneous radio and optical polarimetry of GRB 191221B afterglow”, 2022, Nature Astronomy, 7, 80 [2] A. Kuwata, K. Toma, S. S. Kimura, S. Tomita, & J. Shimoda, “Synchrotron Polarization of Gamma-Ray Burst Afterglow Shocks with Hydrodynamic-scale Turbulent Magnetic Field”, 2023, Astrophysical Journal, 943, 118 [3] S. S. Kimura, K. Toma, H. Noda, & K. Hada, “Magnetic Reconnection in Black Hole Magneto-spheres: Lepton Loading into Jets, Superluminal Radio Blobs, and Multiwavelength Flares”, 2022, Astrophysical Journal Letters, 937, 34 偏光を利用したブラックホールジェットの研究 KIF1Aを原因とする遺伝性神経疾患の分子メカニズム 當真賢二(先端学際基幹研究部/先端基礎科学領域) 丹羽伸介(先端学際機関研究部 生命)

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