学際科学フロンティア研究所活動報告書_令和4年度
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多細胞生物を構成する細胞は、同一のゲノムを有するにも関わらず、多種多様な形態と機能を示します。脳は様々な形態を示す神経細胞やグリア細胞、血管細胞などから構成され、特に細胞種の多様性に富んだ組織といえます。本年度の研究成果は、ショウジョウバエの脳をモデルに、脳を構成する細胞の多様性が生み出されるタンパク質翻訳のメカニズムを明らかにした点にあります。遺伝子の発現は、ゲノムDNAからRNAへの遺伝情報の転写と、そのタンパク質情報への翻訳からなります。これまで転写の多様性については広く研究がなされてきましたが、タンパク質翻訳の細胞種間の違いについてはほとんど研究がなされてきませんでした。そこで本研究では、脳の特定細胞におけるリボソーム構成タンパク質を遺伝学的にラベルし、生化学を用いて精製することで、標的細胞から特異的にタンパク質翻訳をプロファイルしました。異なる細胞種間で比較することで、タンパク質翻訳のレベルで驚くべき細胞種特異性が生み出されていることが明らかになりました。本研究は、細胞多様性の創出において、RNA転写だけでなくタンパク質翻訳も重要な役割を果たすことを先駆的に示しました。 ―123―脳の多様性を生み出すタンパク質翻訳 微生物が生産する⾃⼰制御分子の⼀挙同定法の開発 放線菌は抗生物質など有用化合物の生産者として創薬上・産業上重要な微生物である。化合物生産の制御にはシグナル分子(自己制御分子)が用いられるが、解析の困難さからシグナル分子が厳密に同定されている例はごく僅かである。本研究ではシグナル分子とその関連化合物の効率的な探索方法を開発・実践した。シグナル分子の生産を増大させた上で、質量分析器を用いた探索を適用し、新規天然型のシグナル分子様化合物の迅速同定に成功した。 シグナル分子の生合成経路から分岐派生して生産されるリン酸トリエステル化合物は、酵素阻害能や抗マラリア原虫活性を持つことが知られる希少天然化合物である。今回、リン酸トリエステル構造を指標とする探索法を構築し、リン酸トリエステル化合物サリニポスチンの新規類縁体を複数発見した。さらに、得られた化合物が脂質代謝酵素に対する強力な阻害能を示すことを明らかにした1)。神経毒テトロドトキシンに関する研究も実施した2)。 参考文献 [1] Y. Kudo*, K. Konoki, M. Yotsu-Yamashita*, Biosci. Biotechnol. Biochem. 2022, 86, 1333. (Selected as journal cover, 2022年論文賞) [2] C. T. Hanifin*, Y. Kudo, M. Yotsu-Yamashita, Prog. Chem. Org. Nat. Prod. 2022, 118, 101. 市之瀬 敏晴(新領域創成研究部/生命・環境) 工藤雄大(新領域創成研究部/生命・環境)

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