学際科学フロンティア研究所活動報告書_令和4年度
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複雑な生体システムの生理機能の理解や病態の解明のため、生体内部と外部からの多様な生体信号を操作・計測することが可能となる多機能集積化ファイバの研究開発を行なった。 まずは機能性ナノ・マイクロ複合材料を創出し、未開拓なファイバ電気化学、特に生体内バイオ化学センシングへの応用にも挑戦し、ファイバ電気学センシング機能の実現に成功した[1]。また、熱延伸処理により製作可能な多機能ファイバに、通電加熱で動くことが可能な形状記憶合金(SMA)ワイヤを、内部電極層として導入する技術を確立でき、ファイバの新たな機能として、ファイバアクチュエータの発明をできた[2]。 さらに、多様な生体信号を計測・操作できる新規なファイバ・テキスタイルを開発し、ヒト心身状態をモニタリングでき、脳-身体-周囲環境の相互作用についての研究も挑戦している。特に、汗の中に含まれる重要な生体健康因子であるナトリウム、尿酸などを高感度かつ選択的に検出・モニタリングできる多機能ファイバ・テキスタイルの開発に成功した[3]。 今後も、ファイバエレクトロニクスを革新し、複雑な生体システムを解明していきたい。 参考文献 [1] Nishimoto R, Sato Y, Wu J, Saizaki T, Kubo M, Wang M, Abe H, Richard I, Yoshinobu T, Sorin F, Guo Y. Thermally drawn CNT-based hybrid nanocomposite fiber for electrochemical sensing. Biosensors. 2022 Jul 24;12(8):559. [2] Sato Y, Guo Y. Shape-Memory-Alloys Enabled Actuatable Fiber Sensors via the Preform-to-Fiber Fabrication. ACS Applied Engineering Materials. 2023 Jan 23. [3] Wu J, Sato Y, Guo Y. Microelectronic fibers for multiplexed sweat sensing. Analytical and Bioanalytical Chemistry. 2023 Jan 9:1-2. ―128―複雑な生体システムとインタフェースできる多機能ファイバの開発 生体用電極の開発 阿部博弥 (新領域研究創成部/デバイス・テクノロジー領域) 令和4年度では生体内を計測、薬剤投与、刺激を可能とする生体用電極の開発を行った。生体内計測では、マイクロニードル型の電極を作製し、ブタ皮膚内の間質液中に含まれる活性酸素種(ROS)を計測した1。これにより、リアルタイムでの間質液中の生体関連物質のモニタリングを可能にする。生体内薬剤投与は、同様にマイクロニードル型電極に薬剤を搭載しし、マウス表皮より薬剤を導入するシステムを構築した2。薬剤導入は電流印加による水の流れ(電気浸透流)を利用することで、拡散による導入よりも効率的に投与できることを示している。最後に、生体用刺激電極としてハイドロゲルと炭素電極を組み合わせた生体親和性電極を作製した3。このハイドロゲル電極はブタの迷走神経束に巻き付けられ、電気刺激を行うことでブタ心拍の徐脈が確認された。この電極の開発はてんかん患者の症状緩和につながる重要な研究成果である。 参考文献 [1] Y. Abe et al., Microelectronic Engineering 265, 111877 (2022) [2] H Terui et al., Journal of Drug Delivery Science and Technology 75, 103711 (2022) [3] D Terutsuki et al., Advanced Healthcare Materials, 2201627 (2022) 郭媛元(新領域創成研究部/デバイス・テクノロジー)

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