学際科学フロンティア研究所活動報告書_令和4年度
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スピントロニクスと学際研究 ―135―小胞体内液液相分離の発見 これまで小胞体内タンパク質品質管理に関わる因子群の構造機能相関研究により、複雑であるが精巧なタンパク質品質管理ネットワークの一端を明らかにしてきた [1-2]。我々は最近小胞体内局在酵素・シャペロン群であるProtein Disulfide Isomerase (PDI)ファミリーのひとつが相分離することを発見した (特許7194403号)。これまで相分離を制御するシャペロンの研究が展開されてきたが [3-4]、酵素かつシャペロンが単独で相分離することは報告例がなく、我々の発見が酵素かつシャペロンの相分離を世界に先駆けて報告することとなるだけでなく、小胞体内の新たな区画の存在をも示唆する。この液滴は、他の酵素・シャペロン、基質のフォールディング状態を選択的に濃縮するだけでなく、グルタチオン、カルシウムなど低分子化合物も濃縮できる。以上の知見を踏まえ我々が発見した相分離の物性が他の相分離因子とどう違うのかを引き続き明らかにすることは、生物学だけでなく医学的知見としても極めて重要である。 参考文献 [1] M. Okumura, …and K. Inaba “Dynamic assembly of protein disulfide isomerase in oxidative protein folding” Nature Chemical Biology 15, 499-509 (2019). [2] M. Okumura, K. Noi, and K. Inaba.“Visualization of structural dynamics of protein disulfide isomerase enzymes in catalysis of oxidative folding and reductive unfolding” Current Opinion in Structural Biology 66 49-57 (2021). [3] T. Yoshizawa, … and Y.M. Chook. “Nuclear Import Receptor Inhibits Phase Separation of FUS through Binding to Multiple Sites” Cell 173(3):693-705 (2018). [4] F. Frottin, … and M.S. Hipp. “The nucleolus functions as a phase-separated protein quality control compartment” Science 365(6451):342-347 (2019). ナノ磁性体を利用した大容量磁気記録は近年の情報化社会に大きく貢献していると言える。電子デバイス(エレクトロニクス)に磁性(スピン)の自由度を取り入れたスピントロニクスという学術分野は磁気メモリデバイスを筆頭に基礎、応用研究が盛んに行われている。私はナノ磁性体の興味深い物理現象を利用した学際研究への展開を目指している。最近、光とエレクトロニクスの融合である光電融合への展開を見据えた光誘起磁場/スピン現象の観測に成功した[1]。加えて、スピンの波を利用した脳型計算をシミュレーションにおいて実証し、スピンを使うことでナノスケールで高性能なリザバー計算機を実現できることが分かった[2]。またトポロジカルな性質を有する半金属ビスマスを利用したスピントロニクステラヘルツエミッタ現象の理解をした[3]。新機能性を有する広帯域スピントロニクステラヘルツ光源への展開が期待できる。 [1] S. Iihama*, K. Ishibashi, S. Mizukami, J. Appl. Phys. 131, 023901 (2022) (Selected as Featured) [2] S. Iihama, Y. Koike, S. Mizukami, N. Yoshinaga* (submitted) [3] K. Ishibashi*, S. Iihama*, S. Mizukami, (submitted) 奥村正樹(新領域創成研究部/先端基礎科学) 飯浜 賢志(新領域創成研究部/先端基礎科学)

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