学際科学フロンティア研究所活動報告書_令和4年度
139/152

―136―2022年度は修士学生と共同で研究した結果が花咲いた。まず、市川が構築した千年-1万年程度で光度変動する活動銀河核探査 (fading AGNと呼ぶ) を統計的に行った。サンプルはSDSSサーベイで発見された活動銀河核1万天体を用い、50天体ほどのfading AGN候補天体の発見に至った。この結果、我々の探査手法により1万年ほど前の過去に激しくブラックホールが成長していた天体を効率よく選択し、超巨大ブラックホール成長の終焉の物理を理解する格好のサンプルを構築することができた[1]。もうひとつの研究は銀河団中心に存在する活動銀河核の中心ブラックホールへのガス降着率の調査である。銀河団はその系のスケールからガスが一旦冷えると大量の降着が起きることが理論的に示唆されているが、近傍宇宙ではそのような現象は観測されず、むしろ非常に高温のガスが存在することが知られている。我々は理論的に予想されていた激しくガス降着を起こす天体を発見し、そのガス降着率を定量的に評価し、近傍で知られる最も激しく成長している系であることを示した[2]。 参考文献 [1] J. Pflugradt, K. Ichikawa, M. Akiyama, et al., 2022, The Astrophysical Journal, 938, 75 [2] H. Fukuchi, K. Ichikawa, M. Akiyama, et al., 2022, The Astrophysical Journal, 940, 7 多波長電磁波観測からさぐる特殊な活動銀河核の探査 生命科学研究への応用に向けた人工⾦属酵素の開発 人工金属酵素はタンパク質の内部空間に合成金属触媒を導入することで構築される。人工金属酵素では、人類が開発してきた合成金属触媒の利点(自然界が見出してこなかった産業的に強力な化学変換)と自然界が進化させてきた生体触媒(酵素)の利点(温和な反応条件で高選択的な物質変換)を組み合わせることが可能である。我々は人工金属酵素によって生命科学研究に介入することをめざし、新規な人工金属酵素の開発から、その細胞内導入法までを包括的に研究している。本年度は、以下の3つのプロジェクトを並行して進めた。①光駆動型人工金属酵素の開発、②元来金属イオンと結合しないタンパク質への金属イオン結合サイトの構築③ 複数の機能性分子を導入したベシクルの開発。これらの中から、特に進捗の見られた光駆動型人工金属酵素について、以下に報告する。昨年度中に見出していた特異的に結合する合成金属触媒とタンパク質の組み合わせを活用し、光駆動型人工金属酵素の創成に成功した。500報以上の人工金属酵素研究に関連する論文があるが、光駆動型人工金属酵素の例は極めて限られている。この人工金属酵素は合成金属触媒単体では示すことのない触媒能が発現することを明らかとした。より詳細な機能解析のため、馬渕拓哉助教(物質材料・エネルギー領域)との共同研究によって、人工金属酵素の構造の推定を行った。また、佐藤伸一助教(生命・環境領域)との共同研究を通じて、今回開発した光駆動型人工金属酵素が生命科学や創薬研究において重要な「生体分子の部位特異的な修飾法」へと応用可能であることを示した。 市川幸平(新領域創成研究部/先端基礎科学) 岡本 泰典(新領域創成研究部/先端基礎科学)

元のページ  ../index.html#139

このブックを見る