学際科学フロンティア研究所活動報告書_令和4年度
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―138―Sr2RuO4 の超伝導秩序パラメータが最度大きな議論の的となっている中、超伝導ペアリング機構の最有力候補としての磁気・軌道励起スペクトルの運動量依存性を知ることは重要である。 磁気励起スペクトルの観測には主に中性子非弾性散乱が用いられ、多くの実験事実が蓄積されてきたが、実験的な情報は主に散乱強度の強い q = (0.3, 0.3) の非整合スピン揺らぎを始めとする低エネルギー領域に集中している。 天体⾼エネルギー現象に関する理論的研究 我々の住む宇宙では様々な高エネルギー現象が発生しており、多くの天体で高エネルギーの荷電粒子(宇宙線)やガンマ線、ニュートリノといった宇宙高エネルギー粒子を放射していると考えられる。本年度は、原始星フレアにおける宇宙線生成とガンマ線放射[1]、原始惑星系円盤への宇宙線の伝搬と電離度[2]、史上最も明るいガンマ線バーストからのニュートリノ放射に対する制限[3]、ガンマ線バーストの前進衝撃波における磁場増幅過程[4]、超巨大ブラックホールへの降着プラズマからのガンマ線放射 [5]に関する理論研究を行った。また、超巨大ブラックホールから噴出している電波ジェットのプラズマの起源に関する理論的研究[6]に関してプレスリリースを行い、国内・海外を含め多くのウェブメディアに掲載された。 参考文献 [1] Shigeo S. Kimura, Shinsuke Takasao, Kengo Tomida, accepted by The Astrophysical Journal [2] Yuri Fujii, Shigeo S. Kimura, 2022, The Astrophysical Journal Letters, 937, L37 [3] Kohta Murase, Mainak Mukhopadhyay, Ali Kheirandish, Shigeo S. Kimura, Ke Fang, 2022, The Astrophysical Journal Letters, 941, L10 [4] Sara Tomita, Yutaka Ohira Shigeo S. Kimura, Kengo Tomida, Kenji Toma, 2022, The Astrophysical Journal Letters, 936, L9 [5] Riku Kuze, Shigeo S. Kimura, Kenji Toma, 2022, The Astrophysical Journal, 935, 159 [6] Shigeo S. Kimura, Kenji Toma, Noda Hirofumi, Hada Kazuhiro, 2022, The Astrophysical Journal Letters, 937, L34 本研究では新規に開発された Tender X 線領域の共鳴非弾性 X 線散乱(RIXS)装置[2]を用い、Ru L3吸収端(~2838 eV)における Sr2RuO4の RIXS 測定を行った。実験は T = 20 K の常伝導状態で行った。入射 X 線の偏光を π 偏光に選び、発光 X 線強度を散乱角度 90 度で測定することにより、Sr2RuO4の磁気・軌道励起スペクトルを幅広い運動量・エネルギー領域 (≲4 eV) にわたって観測した。測定された RIXS スペクトルは非整合スピン揺らぎに加えて、運動量分散を示すブロードな複数の軌道励起を含むことがわかった[1]。 参考文献 [1] H. Suzuki et al., arXiv:2212.00245 非従来型超伝導体 Sr2RuO4のスピン軌道励起の観測 木村成生(新領域創成研究部/先端基礎科学) 鈴木博人(新領域創成研究部/先端基礎科学)

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