学際科学フロンティア研究所活動報告書_令和4年度
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大下 慶次郎(理学研究科)、上野 裕(学際研)、馬渕 拓哉(学際研)、鈴木 杏奈(流体研) ―142―骨格筋断片動態に学ぶヘテロな⾃律分散システムの動作原理 原子衝突と位相的データ解析を用いた 超分子空孔内の原子輸送現象の解明 8.4 領域創成研究プログラム(令和4年度終了課題) 8.4 領域創成研究プログラム(令和4年度終了課題) 小さな原子や分子、イオンなどが複雑に入り組んだ構造の中を輸送されるとき、どのような経路を輸送され、どのくらいの速さで(伝導・拡散)することができるのか?ナノスケールの世界で起きている原子輸送現象は、生体分子(生命科学)から高分子材料(材料科学)まで、幅広い分野で重要な役割を担っている。本研究では、n個のベンゼン環がパラ位で結合した環状π共役分子である[n]シクロパラフェニレン([n]CPP)を研究対象とした。[n]CPPの空隙をHe原子が貫通する輸送現象について、イオンモビリティ質量分析とトラジェクトリ計算を用いて研究した。先行研究に従ってNOSbF6を酸化剤として用い、室温Ar下の反応で[n]CPP•+のジクロロメタン溶液を調製した。得られた溶液を用いてエレクトロスプレーイオン化により気相にイオンを取り出し、イオンモビリティ質量分析を300 Kと86 Kの2種類のHe緩衝気体温度で行った。その結果、分析で得られた[n]CPP•+とHe原子との衝突断面積の実験値は、トラジェクトリ計算で求めた計算値と誤差1.8 %以内で良く一致した[1]。 参考文献 [1] 渡邉・伊藤・上野・馬渕・大下・美齊津、日本化学会第103春季年会、K205-2pm-03. 本研究は、生物体内を動き回るヘテロな細胞群が集団としてまとまった動態を創発する現象を切り口として、その動作原理を解明し、将来的な革新的な自律分散システムの構築に役立てることを目指す。我々の体を構成する最小単位である細胞一つ一つは高度な情報処理を行うものではない。それにも関わらず、集団として振る舞った時に、全体としてまとまり、秩序正しい構造を再現性高く作る驚異的な能力を発揮する。この能力を発現する仕組みを明らかにするために、筋断片が自己組織化的に秩序正しいパターンに配列する現象に注目した。生体内環境は常に均一なわけではないにも関わらず、筋組織は非常に再現性高く構築される。その優れた環境適応性は細胞集団のヘテロ性に由来すると考えられる。そこで本研究ではまず、筋断片の動態の集団内のばらつきを定量的に解析した。その結果、時間が経過するにつれ、動きの遅い細胞が集団内に徐々に増加していくことが明らかになった。また、筋断片によるパターン形成の原理理解の構成論的アプローチとして自己駆動粒子系の数理モデルを構築した。この数理モデルから、パターンの形成には細胞同士の接着の制御、すなわち細胞間相互作用が重要であることが示唆された。そこで、細胞間相互作用を解析するために、2つ一組の細胞の動態の相関を定量的に評価する手法を確立した。以上から、ヘテロな自律分散システムの動作原理の理解へ向けた技術基盤を構築することができた。 梅津大輝(生命科学研究科/生命・健康)

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