学際科学フロンティア研究所活動報告書_令和4年度
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―145―二次元物質における光-スピン結合 バイオナノファクトリーのための 大腸菌外膜エンジニアリングの基盤形成 8.5 学際研究共創プログラム(令和4年度終了課題) 8.5 学際研究創成プログラム(令和4年度終了課題) 近年グラフェンを始めとする二次元物質が特異な物性を発現することで様々な分野において注目を集めている。空間反転対称性が破れた単層の遷移金属-ダイカルコゲナイド(Transition-metal dichalcogenide: TMD)は異なるバレー(ブリルアンゾーンのK, K’点)で異なるヘリシティの光を吸収するカイラリティ選択則が発現する。このような物質を用いることで光とスピンが強く結合した状態が作れると考えられるが、光によるスピン生成効率やその光スピン生成を用いた磁化制御に関して調べられていなかった。我々はQuantum Espressoを用いることによってAB2(A={Mo, W}, B={S, Se, Te})の単層TMDのバレー、スピン分裂、バンドギャップ等を理解することができた。加えて、その物質における光-スピン結合を計測するための光学系の構築を行った。理論的な側面に関して、今後スピンホール効果のエネルギー依存性、フォノンとの結合や時間依存密度汎関数理論を用いた詳細な理論的予測を行っていきたい。また実験的な側面に関しては、波長可変レーザー系による二次元材料の円偏光誘起スピン計測を行うことで光-スピン結合の実験的な観測を実現したい。 適切なタイミングで患部のみに薬を届けることできれば、服用する薬の量や回数を減らすことができるため、がん治療をはじめとする最先端治療に大きく貢献することが期待できる。このような体内における薬剤分布の時空間制御を目的として、薬剤と運搬体を複合化させた薬物輸送システム (Drug Delivery System) の研究が基礎から臨床まで包括的に進められている。DDSの代表例として、特定の細胞や組織を認識する抗体に薬剤を複合化したAntibody-Drug Conjugateが挙げられる。これに対して、「疾患部位で薬剤を作り出すナノファクトリーの送達」を狙ったDDS研究も精力的に進められている。ナノファクトリーは、中空状微粒子内部に酵素などの化学変換モジュールを内包することで構築される。 このような背景の下、本研究では細胞外微粒子の内外に任意のタンパク質を効率的に導入する手法の開発を目指している。我々は昨年までに細胞外微粒子を産生する細胞の任意の場所に2つの異なるタンパク質を同時に発現させる仕組みを確立している。本年は、この細胞を用いて産生された細胞外微粒子の評価を行った。得られた細胞外微粒子のサイズは直径80 nm程度であった。また、磁性体粒子を用いた免疫沈降実験から、この細胞外微粒子はその内外に2つの異なるタンパク質を有していることがわかった。一方で、2つのタンパク質のうち1つだけ、あるいはどちらも有さない細胞外微粒子も多く得られているため、現在は両者を持つものを効率的に産生する条件を検討している。 飯浜 賢志(新領域創成研究部/先端基礎科学) 岡本 泰典(新領域創成研究部/先端基礎科学)

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