東北大学
学際科学フロンティア研究所

FRIS Interviews #03

FRIS Interviews#03前編

  • 田村 光平Kohei Tamura

    人類学Anthropology

  • 常松 友美Tomomi Tsunematsu

    睡眠脳科学・電気生理学Sleep Research, Electrophysiology

  • 當真 賢二Kenji Toma

    宇宙物理学Astrophysics

学際科学フロンティア研究所は「学際的研究の開拓・推進によって新たな価値を創出し、人類社会に貢献すること」を目的としています。そのコンセプトを所属研究者によって語り、考える企画が本連載『ボーダーを越えて』です。

それぞれの研究人生に触れながら、「自分が体験した学際的な活動を語っていただきます。学際フロンティア研究所(以下、学際研)の理念と実態を浮き彫りにすると同時に、学際研のメンバーが対話を通じてこれからの組織のあり方を考える場です。

アインシュタインに憧れて

當真 賢二(以下、當真)
僕が研究者を目指したのは、中学生の頃です。NHKスペシャルの「アインシュタインロマン」という特集を見て「これしかない」と思いましたね。中学生の頃から博士になると決めていました。世の中そんな奴ばかりかと思っていましたが(笑)、世の中に出たら違うようです。
當真 賢二Kenji Toma

学際科学フロンティア研究所 助教
京都大学大学院理学研究科卒。博士(理学)。国立天文台研究員、米ペンシルベニア州立大学研究員、大阪大学での日本学術振興会特別研究員SPDを経て、2013年より現職。平成29年度科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞。専門はブラックホール周辺で起こる高エネルギープラズマ現象の研究。特にブラックホールが駆動するプラズマ噴流(ジェット)のメカニズムを調べており、それは重力波、宇宙論、銀河進化、最新観測、数値シミュレーション研究などと関連して進んでいる。

常松 友美(以下、常松)
當真さんと同じでいいにくいんですが…。「脳と心」という番組を10歳ぐらいに見て、それで「脳の研究をするしかない」と思いました。脳の研究といってもいろいろある。それから何を研究するか考えました。「寝るのが好き」だし、どうも睡眠のメカニズムについては、当時はあまり明らかになっていないということだったので、私がやるしかないと思いました。10歳上の姉が筑波大学に通っていて、大学といえば筑波大しか知らなかったので、筑波大学に入りました。チャンスがあれば睡眠の研究がしたいと機会を伺っていたのですが、たまたま手に取った雑誌に載っていた研究がまさに私のやりたいことだったんです。どこの大学の先生だと思ったら、なんと筑波大の先生でした。それで学部3年生の頃からずっと睡眠の研究をしています。
田村 光平(以下、田村)
僕は完全に成り行きです。地元が山口県の田舎だったので、大学があまりないし、どんな大学があるかもよく知りませんでした。そこで、旧帝大ならいいだろうと思って、名古屋大学に入りました。情報文化学部という文理融合の学部です。卒業研究を始めると面白くて、そこで扱っていたテーマを専門にしている東京大学の人類学の先生の研究室へ大学院で進学しました。博士に進むと決めたのは修士のとき、助成金がもらえたので「進んでもいいかな」と思って決断しました。
当時名古屋大学の助教授だった森博嗣という小説家が、大学を舞台とした小説を書いていて、中学生の頃好きでした。そこで描かれている研究者は、世の中の煩わしいことを捨てて生きているイメージだったので、そういう仕事ならなってもいいかな、と思っていました。現実は全然そうではなかったんですが(笑)
田村 光平Kohei Tamura

学際科学フロンティア研究所 助教
名古屋大学情報文化学部卒。東京大学大学院理学系研究科修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員、東京大学特任研究員、ブリストル大学博士研究員を経て、2016年から現職。専門は人類学、文化進化。とくに最近は、考古遺物の定量的解析と、そうした手法を誰でも使えるようにするための研究環境の構築に取り組んでいる。

「学際」とは何か?

常松
そもそも「学際」を意識していませんね。この研究所にアプライするときに初めて「学際」という言葉を知りました。検索したぐらいです(笑)
當真
そもそもあまり意味も定まってないですよね。学問の際なのか、「国際」と似て様々な学問にまたがるという意味なのか。
田村
この後我々、所長に怒られるかもしれない(笑)
常松
私はこの研究所に来て、少し分野を変えました。これまで神経の研究をしていましたが、グリア細胞という脳の中にある細胞の研究です。「Glue(糊)」が語源で、何もしていないと考えられていました。しかし最近になって、神経自体の活動をも制御しているということが分かってきました。睡眠にもきっと関わっているだろうと、グリア細胞研究の第一人者、松井広教授の下で一緒に研究をしています。私はいろいろなことに興味を持って手を出したがるので、それが「学際」なのか分かりませんが、どんどんフィールドが広がっていっています。マンパワーが少ないし、人と同じことをやっても勝てない。おそらく学際研の人たちのほとんどがそうなんじゃないかと思います。生き残りたいことと、興味の問題ですね。
常松 友美Tomomi Tsunematsu

学際科学フロンティア研究所 助教
筑波大学第二学群生物学類卒。総合研究大学院大学生命科学研究科修了。博士(理学)。生理学研究所・名古屋大学日本学術振興会特別研究員(PD)、英ストラスクライド大学日本学術振興会海外特別研究員・博士研究員を経て、2017年より現職。専門は睡眠脳科学。

當真
物理の世界ではブラックホールだけを専門に研究する人はいますし、プラズマだけの研究をする人もいます。僕はブラックホールの周りのプラズマの研究をしていますが、「ブラックホールでしか起きない現象」というものに興味があって、それを知るためにはどちらも深く学ばなくてはいけない。その結果が今につながっている。知りたいから、誰もやっていないから、そして関連する他の研究も促進させるだろうからというだけです。やむを得ず分野から出てしまいました。
田村
僕も特に学際ということを意識して研究してきたわけではありません。フラフラしていたら、元FRISで考古学者の有松唯先生に「お前は学際だな といわれました(笑)
當真
土器の形を数学的に分析するという研究は前からあるものですか?
田村
そうですね、僕が初めてというわけではありません。もともとは生物の形を分析する方法から借りてきているのですが、それには長い歴史があります。そのような研究をやっている人はそこまで珍しいことではないのですが、途中で辞めてしまう人もいます。やっぱりいろいろな限界が見えるんだと思うんです。なので、「学際」だからやっているというよりは、人が「面倒くさいな」と思うことを、「でも、これって必要だよね」と愚直にやっている感じですね。
當真
そういうアプローチでの研究は人類学の枠の中にあるのですか?
田村
僕はそう思っています。良くも悪くも、なんでもありなので。「広義の人類学」と呼ばれる分類がざっくりいうと3つあります。文化人類学、考古学、自然人類学です。僕は考古学が対象としているものを、自然人類学の手法で解析している、と言えると思います。
これまで学部は文理融合で、大学院では理学部の生物の研究をし、工学系の応用数学の研究室でポスドクをやってFRISにきました。前々からこのような研究はやっていたのですが、本格的に取り組んだのはFRISに来てからです。
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