東北大学
学際科学フロンティア研究所

FRIS Interviews #06

FRIS Interviews#06

  • 翁岳暄Yueh-Hsuan Weng

    人工知能と法・法情報学・ソーシャルロボティクスHuman and Society

学際科学フロンティア研究所は「学際的研究の開拓・推進によって新たな価値を創出し、人類社会に貢献すること」を目的としています。そのコンセプトを所属研究者によって語り、考える企画が本連載『ボーダーを越えて』です。

それぞれの研究人生に触れながら、「自分が体験した学際的な活動を語っていただきます。学際フロンティア研究所(以下、学際研)の理念と実態を浮き彫りにすると同時に、学際研のメンバーが対話を通じてこれからの組織のあり方を考える場です。

「研究者」を目指したきっかけ

翁岳暄(以下、翁)
私の研究的興味は人工知能(AI)と法律の間にある交差です。私がこの分野に携わるようになったのは、2004年にカリフォルニア大学バークレー校と早稲田大学に短期留学した頃でした。そこではファジィ理論とヒューマノイドロボットを学ぶ機会に恵まれました。
この2校へ留学した後、AIとロボット工学に魅了された私は、法律の分野にこれらを応用する可能性について考え始めました。私の見解では、社会におけるロボットの役割を変えたのは、ロボットの人間との接触度によるものです。
この技術動向はロボットの役割を大きく変えていくでしょう。ロボットの接触度が高まることで、ロボット工学者は自律システムを設計する際、ロボットの倫理的、法的、社会的問題について認識する必要があるからです。
一方で、現代のロボット安全性に関する規制は人間とロボットを分離した指針を基にされており、これはAI有効のロボットに対して隔たりとなりえます。人間とロボットの共存を目指して現在の社会システムを見直し、改訂する社会科学者が必要となります。私は前回の2つの研修でこのような研究者になると決心しました。
翁岳暄Yueh-Hsuan Weng

学際科学フロンティア研究所 助教
北京大学法学研究科修了。法学博士。北京大学法学部ヤフー博士研究員、早稲田大学理工学術院外国人研究員、ボローニャ大学法哲学、法制史、法社会学、法情報学学際研究センター訪問学者、鴻海精密工業サンパウロ南米支社役員補佐、香港大学法学部客員助教授などを経て、2017より現職。専門は人工知能と法律の分野横断学際研究、特にロボット法律と倫理、ソーシャルロボティクス、法情報学

「分野」の枠を飛び出す勇気

研究を進めるうえで重要なことの一つは「問題意識です。10年以上前では人工知能と法律の分野において学際的研究をする上で最も難しい部分でもあります。
私の個人的な観察では、工学部と法学部の間には、それらの研究をする重要性に対しての認識に大きな隔たりがありました。工学部は人工知能と法律の研究に対しては実用的な態度を持つ一方で、法学部ではこのようなトピックに対して通常警戒心を持っています。私は法学部でこの学際的研究の実現は不可能であるとわかっていましたので、国立交通大学情報工学部に移り、人工知能と法律の勉強を始めました。数年後、北京大学法学部に戻り、2014年に博士課程を修了しました。
幸運なことに、私の国立交通大学でのアドバイザーは孫春在 (Chuen-Tsai Sun) 教授で、かつてカリフォルニア大学バークレー校でファジー理論の提唱者であるLotfi A. Zadeh教授の元で博士号を取得した方でした。また、私は博士号の研究の為に、早稲田大学ヒューマノイド研究所において高西淳夫教授のもとで博士課程の共同教育を受ける機会も得ました。これらの経験は、人工知能と法律の研究をする私の知見を大きく広げただけでなく、私の研究に対する「問題意識」を高めることにもつながりました。

「異なるもの」を見つめる視点

FRISには「物質材料・エネルギー」、「生命・環境」、「情報・システム」、「デバイス・テクノロジー」、「人間・社会」、「先端基礎科学」の6つの主要研究領域があり、私は「人間・社会」の研究グループに所属しています。私の教育的バックグラウンドにより、「情報・システム」以外の研究グループには馴染みがないと認めざるを得ません。しかし、FRISは私のような外部の研究者が他の研究内容をより深く理解できるよう、他の学問の研究者と交流する機会を与えてくれます。例えば、Skypeの共同設立者であるJaan Tallinn氏や哲学者のHuw Price氏を含む様々な学問の思想家を招くセミナーを開催し、現在進行している研究を一般の方と共有することもあります。このような学際的セミナーは、他の学問から新しい知識を吸収するのに役立ちます。

「学際」の未来

アジアには、学際的科学を推進する学際研のような研究機関がいくつかあります。これらの機関の中で学際研の特徴は、助教を東北大学の多くの異なる学部に所属させていることです。例えば、私は大学院の工学研究科に所属し、指導教授のロボット工学者、平田泰久教授と共に研究を行っています。AIとロボティクスにおけるELSI(倫理的・法的・社会的問題)に関する知識の幅を広げてくれるだけではなく、社会的ロボット工学といった、社会科学とロボット工学の交差において新しいアイデアを与えてくれます。
加えて、学際研は研究者に多くの支援と機会を提供しています。学際研の学術プラットフォームに基づき、私の人工知能と法律の研究分野において、香港大学や国立台湾大学の研究者との国際共同ネットワークを広げることが容易になります。一方、学際研に対する潜在的な懸念としては、自然科学と社会科学の不均衡に関するものです。今後、社会科学を中心に、より学際的研究を推奨するシステム構築について考える必要があるかもしれません。
最後に、学際研の将来については楽観的に考えています。理由としては、今世紀の多くの素晴しいイノベーションは、2つ以上の学問分野が交わることで生まれているからです。私たちは紛れもなく、とりわけ人工知能時代において、学際的科学の重要性を認識する必要があると言えます。

[2017年12月22日]

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