東北大学
学際科学フロンティア研究所

FRIS Interviews #10

FRIS Interviews#10

  • 岡本 泰典Yasunori Okamoto

    生物無機化学、タンパク質工学、錯体化学、酵素化学合成Bioinorganic chemistry, Protein engineering, Coordination Chemistry, Chemoenzymatic Synthesis

研究者として真に独立し、
立脚点を見出すために。

あなたがFRISを選んだ理由は。

研究者として独立環境にあり、学際研究を推奨している点が非常に魅力的。

岡本
なんといっても、独立環境であるということです。FRISの直前の所属が海外だったのですが、このポスドク期間にPrincipal Investigator(PI, 研究責任者)となるためのトレーニングを受けてきた自分にとって独立研究者というポジションは非常に魅力的でした。私の研究対象を扱う研究室は多いとは言えず、日本国内での公募はありませんでした。また、卓越研究員候補者にも選定されていましたが、分野を限定しない公募はFRISを除いてほとん どないという状態でした。 また、もう一つの魅力的であった点は、学際研究を推奨していることです。私は学生時代から国内外のさまざまな専門家の下で研究を実施し、ポスドク時代も欧州のいくつかのグループとの共同研究に携わりました。合成化学、高分子化学、ケミカルバイオロジーから 合成生物学、神経科学までの多岐に亘る研究グループが参画しているNCCR MSE(National Centres of Competence in Research, Molecular Systems Engineering)というプロジェクトに参加していましたが、グループ間での共同研究が必須でした。プロジェクトメンバー全員にビジョンが共有されていないとプロジェクト予算の減額あるいは中止となる厳しいものだったため、PIだけではなく、ポスドクや学生でも共同研究についての可能性を議論する雰囲気が醸成されていたのです。これらの経験を通じて、全く分野の違う研究者がお互いの強みを生かして、分野間の障壁が大きく手が出せなかったことに挑戦できる環境の重要性を痛感していました。その点においても、多様な研究者を内包するFRISはとても魅力的に映りました。

現在の研究内容について教えてください。

人工金属酵素による細胞内触媒反応系の確立をめざしています。

岡本
生命活動は連鎖的につながった生化学反応によって維持されていますが、この生化学反応ネットワークを再設計してモノづくりや医薬への応用をめざす研究が勢力的に行われています。合成触媒による非天然反応を生化学反応ネットワークに自在に組み込むことができ れば、合成触媒が新たな医薬候補になり得るため、合成触媒の活躍の舞台をフラスコ内から細胞内に求める流れが興りつつあります。 しかし、生体分子によって不活性化することも多いため、細胞内で利用可能な合成触媒は限られます。一方で私は人工金属酵素に注目しています。金属錯体をタンパク質の内部空間へと導入することで得られる人工金属酵素では、タンパク質に由来する水中での物質変換、反応速度の向上、反応選択性の付与とい った特徴を金属錯体の触媒能に付加することが可能となります。これまでに、これらの特徴を有する人工金属酵素が報告されてきました。しかし、人工金属酵素研究は触媒開発としての面が強く、その応用例は限られています。 そこで、私は人工金属酵素ならではの応用としてchemoenzymatic cascadeや細胞内触媒反応の研究を進めているところです。FRISでは主に人工金属酵素の迅速な調製法・最適化法や簡便な細胞内導入法など、より 汎用な細胞内触媒反応系の確立を目指しています。
岡本 泰典Yasunori Okamoto

学際科学フロンティア研究所 助教。
スイス・バーゼル大学で約5年の研究期間(うち2年間を日本学術振興会 海外特別研究員として)を経て2019年5月よりFRIS助教。非天然の化学変換反応を触媒する人工金属酵素の構築、およびその応用としてchemoenzymatic cascade(人工酵素と天然酵素による多段階物質変換反応)や 細胞内触媒反応の研究を進めている。

FRISの特徴や魅力を教えてください。

全分野が対象となるので、誰にでもチャンスがある。

岡本
FRISは全分野が対象となるので全ての研究者に等しくチャンスがあると言えるのではないでしょうか。また、基礎的な研究費がいただけるのは非常にありがたいことですね。テーマに縛られるのではなく、人に投資をしてくれているので、率直に自分のやりたいことを研究テーマに設定できるところも良いと思います。

FRISでの経験を生かし、どのような将来像を描いていますか。

科学の本質や面白さを子どもたちに伝えられる研究者に。

岡本
小学一年から大学四年までずっと教師を目指していたこともあり、科学とはなにか、研究とはどういうものか、そしてその面白さや素晴らしさを次代の担い手となる子どもたちに伝えられる研究者が私のめざす研究者像です。科学技術立国として次代のために重要なのは『人』であると考えており、最終的には教育という形で社会に還元したいと考えています。この目標に向けて、まずは研究に集中し、独立した研究者としての立脚点を作ることを第一に、日々研究に取り組んでいるところです。私が博士号を取得してポスドクとしてスイスに渡る前、共同研究でお世話になっていた先生から「ポスドクの間に将来の研究の核になるものを見つけなさい」という助言をいただき、常に新たな学びを求めテーマごとに基軸を変えてきました。FRISでは、これまでに蒔いた色々な種類の種に水をやり、芽を出せるところまでじっくりと成長させたいと思います。将来的にはこれらを統合して自身の代名詞となるような研究(分野)に発展させたいです。その上で、自身の経験や科学の面白さについて次代を担う子ども達に伝えていくことが出来ればと思っています。

FRISではどんな人が活躍できそうですか。

独自の研究分野を開拓したいと思っている人。

岡本
FRISでは、助教というポストでありつつも独立研究者として採用されます。そのため、すでに自分のやりたい研究が定まっている方には向いていると思います。日本の大学で研究職に就くためには応募先の講座と研究対象が一致することが重要になると思いますが、FRISでは、独自の研究分野を開拓したい方に向いています。ただし、研究だけでなく予算獲得から事務作業までを基本的には一人でこなすことになるので、独立研究者としてのマインドセットとマルチタスキングの能力を涵養している必要があると思います。

FRISをおすすめしたい理由は。

日本でも数少ない研究に没頭できるポジションだから。

岡本
一定の期間、基礎的な研究費をいただきながら、PIとして研究に没頭できるポジションは日本ではまだ限られていると思いますので、それを求めている方にはおすすめです。研究者は、自身の専門分野だけに留まることが多くなりがちですが、FRISでは、他の研究者との交流を通して今までになかった着眼点に気づかされることもありますし、従来では交わることのなかった研究者との出会いもあるので、思わぬ研究の創出につながる可能性が十分にあります。新しいこと、新しい環境に臆せず飛び込める方にはおすすめしたいポジションです。

仙台の暮らしとオフタイムの過ごし方について。

ちょうどいい気候のコンパクトな街。今は家族で過ごす時間を大事に。

岡本
気候もサイズ感も気に入っています。街はコンパクトにまとまっていて、必要なものに簡単にアクセスでき、車なしでも十分過ごせます。新幹線の駅、空港も近いので遠距離の移動もしやすいですね。また、仙台の夏は危惧していたほど暑くもなく、冬は動けなくなるほどの雪も降らないので、出身地の岐阜と比較しても暮らしやすいかもしれません。
スイス時代にボスから「子どもの成長はとても早いから家族の時間を大切に」と言われていました。実際に子どもたちの成長はとても早く、見逃せないシーンがたくさんあるのでオフタイムはなるべく家族と過ごすようにしています。スイス時代に感じたのは、余暇の取り方が上手だということです。時間を合理的に使い、研究以外のプライベートの時間も充実させている研究者が多かったように感じます。研究者はともすれば、自分の時間の全てを研究活動につぎ込みがちですが、プライベートの充実が研究にもよい影響を与えることを学んだ今はそのバランスをとることを心がけています。
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