東北大学
学際科学フロンティア研究所

FRIS Interviews #18

FRIS Interviews#18

  • トム・ウェリングTom Welling

    助教

    物質材料・エネルギー

    研究分野

    材料、エネルギー、ナノ材料科学

    主な研究テーマ

    光、エネルギー材料のためのコロイド自己組織化

TomWelling先生

最先端のナノ粒子研究をさらに進展させ、
いずれはエネルギー問題に貢献したい

宇宙の広大さよりも、ナノ粒子の
小さな世界に心惹かれた学生時代
顕微鏡を操作するTomWelling先生

ウェリング先生が研究者になったきっかけを教えていただけますか。

ウェリング

子どものころは、ポケモンとサッカーに夢中でした。笑 学校から帰るとレモネードを飲みながらポケモンカードやゲームに興じ、ポケモンのアニメもよく観ていましたね。オランダ南部の小さな都市で少年時代を無邪気に過ごしましたが、高校生くらいから物理に興味を持ち、化学にも面白味を感じるようになりました。未知への興味関心が高かったので、物理学と天文学を学ぶためにオランダのユトレヒト大学に進学しました。

大学に入り学びを深める中、自分は宇宙の広大さよりも、小さなものに興味があるということに気づきました。学士課程の研究プロジェクトでは、ナノ粒子を研究するグループに参加し、これが研究者としての道を決定づけたと思います。ナノ粒子は想像を絶するほどのとても小さな粒子ですが、高度な顕微鏡を使用すれば実際に自分の目で観察できるので、研究がリアルに感じられます。それが自分にはとても面白く感じられたのです。ナノの世界を間近で見ることもでき、かつそれによる巨視的な世界の影響も観察できるところがいいですね。

先生が行っている現在の研究について詳しく教えていただけますか。

ウェリング

私は、ナノ粒子を組織化して光の経路を操作したり、触媒作用を助けたりする構造を作りたいと考えています。ナノ粒子は毛髪の何十万分の一というとても小さな粒子で、さまざまな特性を持っています。物質はナノサイズになると、通常の大きさの時には持たない特殊な性質を持つようになるのです。まず、光の波長と大きさが近いので光との関わり方が変わります。そして、小さくなるとより多くの表面を持つため、触媒としても優れることがわかっています。この特性は化学反応させるときに役立ちます。

ナノ粒子一層の段階で見られる特性は、二層、三層と層を増やしたり、特定の構造にしたりすることで、さらに多くの特性が発見できたり、特性が強化されたりする可能性があります。現時点でも、構造化することで光の波長のようなブロックを作るなど、新しい特性が見られることがわかっています。

先生の研究では、何か新しい素材を生み出すことを目指していますか。それとも、何か純粋な物質を作ることを目指しているのでしょうか。

ウェリング

現在は、ナノ粒子を構造化し、特殊な刺激を与えた際に特殊な変化をする物質を作ろうとしています。例えば、電気を流したり、磁力をかけたりすると光と反応する物質などですね。これはいずれ消費電力を抑えたディスプレイなどに応用できるのではないかと考えています。また、褪色しないインクや塗料、化学反応を簡単にする触媒としても応用できそうです。こういった特性は、代替エネルギーの研究としても可能性を秘めており、個人的には、母国オランダのすでに重要なトピックである新しいエネルギー研究にもいずれは貢献したいと強く思っています。

先生の研究が学際的であるとすれば、それはどんなところでしょうか。

ウェリング

私の研究は物理と化学の先端で行っているものです。私のバックグラウンドは物理なので、まずはどんな新しい物質・材料を作るか推測・計算して、その後、化学的なアプローチでナノ粒子を合成し、その構造体を作ります。

一方で、これまでと少し異なる面で学際的だとすれば、「小さなもの」と「大きなもの」という要求される専門性が異なる対象物で研究を進めていることでしょうか。私はナノ粒子という、とても小さな世界の研究を進めていますが、実際に現実世界で使えるようにするには、研究したナノ粒子をいかに大きなものにするかという課題があります。化学と物理ほどの違うわけではありませんが、異なる大きさの対象物には要求される知識や技術は異なります。

光る研究素材
シンプルな素材のナノ粒子を配列するだけで
全く異なる特性をもつ素材を
生み出せること

現在の研究テーマに至った経緯は。

ウェリング

私はいつも光に魅了されてきました。私の学士プロジェクトと修士プロジェクトでは、ナノ粒子を使用して光を操作する2つの異なるケースに焦点を当てていました。博士課程では、ナノ粒子間の相互作用と、これらの相互作用を適切に設計した時、ナノ粒子がどのようにして美しい構造を自ら形成するかについて研究しました。ポスドク時代は、ナノ粒子の触媒作用について、ナノ粒子が化学産業の効率化にどのように役立つかについて研究を進めました。現在は、これまでに学んだ全てを組み合わせて、この研究の新境地を開拓すべく動いています。

ナノ粒子研究の魅力とは何でしょう。

ウェリング

たとえば、ガラスなどの一般的で豊富な材料でもナノ粒子の構造を変えることで、肉眼で見たときの色が変わるなど、元々持っていた特性を完全に変化させることができます。これは、ガラスのナノ粒子が、大きさやその構造によって異なる色を示す特性を持っているからです。特殊で複雑な素材ではなく、シンプルな素材を使って、全く異なるものを作れることが魅力ですね。基本的にはシンプルな素材を使って研究することに面白味を感じています。

同じ素材なのに大きさが異なることで特性が変わるというのは、興味深いですね。

ウェリング

私の研究の最も優れている点は、一般的な材料のナノ粒子の規則的な構造を作成し、その構造をその材料が現実世界で持つさまざまな特性に結び付けることです。顕微鏡を使用すればその配列を観察できることが、この研究の醍醐味だと思います。

研究者として喜びを感じるのは、どんな時ですか。

ウェリング

学部生の時に何ヶ月も実験がうまくいかなかったことありました。経験不足で理由もわからず、ひどく落ち込みました。「なぜうまくいかないのだろう」と考え続ける中、とある金曜に、突然、光との関係がうまく作用し実験が成功したのです。とても嬉しかったですね。あの日、研究室から戻る道中も笑みがこぼれて喜びが全く抑えられなかったです。あのときの感情は忘れられません。

研究は成果が出ない期間もありますが、その分結果を出した時の喜びが大きいものです。成果の出ない期間でも精神的に強くいられるか、挑戦しつづけられるかは、向いている人、向いていない人がいるかもしれませんね。

成果が出た時の喜びが研究のモチベーションになるのですね。

ウェリング

ええ、そうですね。そして、私にはやはり研究で新しいことをいろいろと解き明かしたいというモチベーションもあります。どんな研究でも、「何かを世界で最初に理解する人になれる」ということが、素晴らしい体験だと思います。

パソコンの画面を指しながら説明するTomWelling先生
日本の研究界の課題に取り組む
パイオニアとして
成長し続けることを期待しています

FRISには、2023年に着任されていますが、FRISを選んだ理由を教えてください。

ウェリング

FRISを知ったのは、オランダで同じ研究グループにいた東北大学の教授にすすめてもらったことがきっかけです。実は、私の妻は日本人で、同じく研究職をしていますが、オランダで出会い結婚した後、互いの研究の都合で離れて暮らす期間がありました。次は日本で一緒に暮らしたいと思っていたところで、FRISを知りました。さまざまなポストを検討する中でFRISを選んだのは、独立した研究者になれるからです。

FRISの最大の特徴は、新鮮な視点と学際性の組み合わせによる革新的なソリューションだと思います。これは、FRISが国際卓越研究大学に選定された東北大学のプランの一端を担っているからでしょう。FRISが日本の研究界の新たな課題に取り組むパイオニアであり続け、成長し続けることを期待しています。

先生にとって、FRISで研究するメリットとは何でしょう。

ウェリング

新しい物事が発見される最前線にいられます。若い野心的な研究者たちが毎日新しいことに果敢に挑戦し、イノベーションを可能にしています。特に研究においては、新鮮な視点が必要なので、刺激のある環境に身を置けることはメリットにほかなりません。

強いて言えば、学内では英語で授業をしたり、英語で会話をしたりと英語を学内の公用語として採用して欲しいですね。日本人研究者と一対一で話すときには、みなさん英語を使って会話しますが、グループでの会話では主に日本語が使われるのは、不思議に思います。最初から英語を使って会話ができれば、日本の研究者たちのメリットにもなるはずです。

研究者としてのロールモデルや目指す将来像はありますか?

ウェリング

物理学者としての、自分の研究に直接関わるわけではありませんが、スティーブン・ホーキング博士(イギリスの理論物理学者:2018年没)の存在には刺激を受けます。あのように困難なことがたくさんあっても、挑戦することを忘れずに、さまざまなことを成し遂げる姿勢が素晴らしいと思います。

研究者としての将来ですが、やはりエネルギー研究に携わっていきたいと思います。他国に頼らない独立性のあるエネルギー開発は重要な課題です。そして、それはクリーンで持続可能であるべきです。この課題は日本でも、そして母国オランダにもあると思いますが、従来のエネルギーから新しいエネルギーへ転換していく、それにはスピードも求められているため、いずれはそういった研究へ進展できるようにと考えています。

日本での暮らしはいかがですか。仙台はどんな街でしょうか。

ウェリング

仙台は、大き過ぎず小さ過ぎず、ちょうど良いサイズの街で大好きです。英語力をのぞいたあらゆる利便性が備わっています。笑 そして、大都市の息苦しさはなく、少し車を走らせれば、海や山など郊外の自然に簡単に触れられるのもいいところです。私はオランダの小さな街の出身なので、仙台の都市の規模はとても暮らしやすいです。少し疲れが溜まってリラックスしたいと思ったら、仙台から1時間ほどの蔵王などの田舎でリフレッシュしています。

私は個人的に、日本人の在り方が好きです。責任感があって、多くの人が「がんばります」と努力しようとしますよね。今の研究を日本でやるというのは、自分と同じようなメンタリティを持つ人たちの国なので、やりやすいですし、居心地もいいです。外国で研究するには、自分がどういう人間で、何を求めていて、どんな時に嬉しいのかを理解することが大事だと思います。もちろんどれくらい稼げるか、どんな設備があるかということも重要ですが、自分に合う場所かどうかを理解するのは、それ以上に重要なポイントだと思います。

(2024年5月インタビュー実施)

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