東北大学
学際科学フロンティア研究所

FRIS Interviews #21

FRIS Interviews#21

  • 木村 成生Shigeo Kimura

    助教

    先端基礎科学

    研究分野

    宇宙物理学

    主な研究テーマ

    マルチメッセンジャー天文学

    宇宙線の起源天体と生成機構

    高エネルギー天体現象

木村成生先生

日本ではまだ成長途上の
マルチメッセンジャー宇宙物理の研究コミュニティを
成熟させることを目指して

幼い頃から興味があった宇宙の謎
理論と観測の両面から深奥に迫る
計算式の書いてあるホワイトボード

木村先生の研究は宇宙が舞台ですね。どのような研究か教えていただけますか。

木村

私は宇宙で起っている天体現象を調べています。分野でいえばブラックホール天文学です。最も密度の高い天体として知られるブラックホールは、我々の住む天の川銀河には何億個も存在すると考えられています。宇宙全体では、それをはるかに超える数存在するとわかっているのですが、そのブラックホールが宇宙で果たしている役割、ブラックホールの周囲で特別に起きる現象などを理論的に研究し、ブラックホールが出す信号などを調べています。まずは理論的に概算してから、それを計測できるさまざま道具で測定します。伝統的な天文学では宇宙からやってくる光を天体望遠鏡で観測しています。レントゲンを撮るエックス線でも天体の様子を観測することができます。ブラックホールの周囲からは宇宙線と呼ばれる荷電粒子やニュートリノという素粒子が出ていると考えられているのですが、宇宙から飛来するニュートリノを観測するときには、ニュートリノ検出器というものを使います。理論をもとに予言をし、いろいろな道具を使ってブラックホール周辺で何か起こっているかを調べるのが私の研究です。

宇宙線や宇宙ニュートリノとはなんでしょうか。

木村

私たちの住む宇宙は宇宙線と呼ばれる高エネルギーの荷電粒子で満たされています。宇宙線の大部分はほぼ光の速さで飛び交う原子核ですが、それらの原子核がどこで、どのようにして光の速さ近くまで加速されているのかは、発見から100年が経過した現在も謎に包まれています。これらの宇宙線は天体の中でガンマ線(エネルギーの高い電磁波)やニュートリノ(電荷を持たない素粒子の一種)を生成するため、宇宙から飛んでくるガンマ線やニュートリノを観測することで宇宙線の起源に迫ることができます。近年、実験技術の発達により宇宙から飛来するガンマ線やニュートリノの検出が可能となり、データの精度も上がってきました。私は理論的にさまざまな天体からのガンマ線・ニュートリノ信号を予言し、どのような天体が宇宙線、宇宙ガンマ線、宇宙ニュートリノの起源となるのか、理論的に研究しています。FRISに入ってからは、伝統的な可視光天文学の手法を用いて、観測的に宇宙ニュートリノの起源に迫るという研究も始めました。理論・観測の両面から宇宙で生成される高エネルギー粒子、すなわち宇宙で最も速い粒子群の起源に迫ろうとしています。

そのような粒子はどこでどのように作られるのでしょうか。

木村

宇宙線や宇宙ニュートリノの最も有力な起源天体がブラックホール天体です。ブラックホールは宇宙で最も重力の強い天体で、ブラックホールへと物を落とした時に開放される重力エネルギーは太陽の中心で起きている核融合反応と比べても10倍以上の効率でエネルギーを生成することができます。その膨大な重力エネルギーを用いて、地上では実現できないさまざまな高エネルギー現象が引き起こされます。しかし、具体的な宇宙線やニュートリノの生成過程はまだはっきりとわかっていません。ブラックホール周囲で引き起こされる高エネルギー現象を、プラズマ物理学に基づく数値シミュレーションで調べたり、素粒子・原子核物理学に基づく粒子放射過程を理論的に計算して観測データと比較したりしながら、ブラックホール周囲で何が起きているのかを明らかにしようとしています。

そもそも、ブラックホールが宇宙に何億以上もあるとは知りませんでした。

木村

ブラックホールの存在は、銀河の中心部の星の運動や、電波で撮られたブラックホールの写真、X線の観測など、さまざまな観測方法で確認されています。星の進化理論と天の川銀河の星の数を数えると、その程度はあるだろうと見積もられています。最近は、自分の構築したブラックホール天体からの電磁波放射の理論モデルをもとに、天の川銀河の星間空間を漂っているブラックホールからの電磁波を捉えるための観測的研究も推進しています。

木村先生の宇宙への興味はいつごろから芽生えたのですか。

木村

小学生のころからよく宇宙の図鑑を見ていました。惑星直列で宇宙が滅びるなどオカルトチックなことも書いてあったのですが、興味深く見ていましたね。昔は、宇宙人を取り上げるテレビ番組などもよくありましたよね。ああいったものも好きでよく観ていました。

大学を決める時には、漠然と宇宙関係がいいなという思いから、「宇宙といえばロケット」とロケット作りをしている京都大学の工学部を志望し、他の大学の工学部のオープンキャンパスにも参加していました。ところが、当時の担任が素粒子物理を学んでいた物理の先生で、「宇宙は広いぞ。お前が本当にやりたいことはロケットなのか」と問われたんです。「宇宙の成り立ちや宇宙で何が起こっているか理論で研究するなら、理学部に行くべきじゃないか」とのアドバイスを受け、急遽、進路を大阪大学理学部物理学科へ変更しました。高校3年の秋のことで、今思えばかなりターニングポイントになったと思います。

進路の変更はかなり大きな出来事ですよね。担任の先生が物理を専攻していたからこその助言でしょうか。

木村

そうかもしれませんね。進路を見直すきっかけをもらいました。あそこで変えていなかったら、手先が不器用なのにエンジニアの道を真剣に考えていたかもしれません。キャラの濃い先生で、授業も楽しかったのを覚えています。

その後大学に進学されて、研究の道に進まれたのは、どんなきっかけがあったのでしょうか。

木村

学部1年のときの研修合宿で西播磨天文台に行ったのですが、そのときに見た満点の星空にとても感動して、「これだ」と、宇宙物理を専門にしようと思いました。その後、宇宙の始まりを記述する量子力学や場の理論の勉強で挫折しまして、より直感的な古典物理を用いて研究ができる天体物理の道へと進みました。ちなみに、学部時代までは自分はかなり勉強ができるとうぬぼれていましたが、大学院では、自分よりはるかに勉強ができて物理が得意な人間がたくさんいることを知り愕然としました。笑 大学院時代は受験生の頃よりも勉強しましたね。

実験器具
理論物理学者として
予言したことが
実際に宇宙からのシグナルで観測されること

木村先生はFRIS教授の當真賢二先生との共同研究が多いですね。

木村

當真先生には大きな影響を受けています。私が大阪大の修士2年のときに、同じ宇宙物理理論の研究グループに當真先生(当時:JSPS特別研究員SPD)がいらっしゃって、とても楽しそうにブラックホールの研究をされていました。当時自分が研究していた天体形成論と共通の物理過程が使えるため、ブラックホール天体での高エネルギー現象について、ともに研究を進めることになりました。

その後、宇宙からやってくる高エネルギーニュートリノが発見されたり、時空のさざ波である重力波が発見されたり、超巨大ブラックホールの電波画像が撮られたりと、大きな発見が相次ぎ、彼から独立した後も現在に至るまで高エネルギー天体の研究を幅広く行っています。

宇宙物理の研究の魅力とはどんなところでしょうか。

木村

宇宙には地上では実験できないような極限環境が実現していて、日常で出会う現象とは全く違う現象が発生しています。それらの現象を学ぶことは興味深く、現在も新たな大規模実験が始まると未知の天体現象がどんどん出てくる分野でもあります。新天体が発見され、新たな信号が検出されたときに、それが自分の理論モデルと合っていたときには非常に気持ちが良いですね。また、理論宇宙物理学者として、今ある現象を説明するだけでなく、「予言」するのを大切にしています。自分が構築した理論モデルに基づくと、次はどのような信号が見えるのか、というのを可能な限り提案するようにしています。実際に提案した予言にかなり近い形の信号が確認されたときは、とても興奮しました。

若手研究者として、研究者となってから壁を感じたこと、難しさを感じたことはありましたか。

木村

日本には宇宙系・理学系のポストが希望者に対して少ないことですね。どれだけ研究成果を上げてもポストが少ないのです。自分も教員公募に落ち続け、10件くらい連続で落選したときにはさすがに落ち込みましたね。以前から自分の専攻ではポストがないかも、とある程度予想していましたが、現実は難しいですね。成果を上げながら需要のある研究を行っていかなければならないです。

対談中の木村成生先生
成熟していない萌芽的な分野にも
手を差し伸べてくれる懐の深さ

FRISには2年前に着任されていますね。FRISはいかがですか。

木村

研究環境がとても良いです。他の助教ポストと比べて義務が少なく、研究第一に、集中して取り組めることが非常に大きいですね。一方で、教育者としての将来のために、メンターによっては専攻の授業を持たせてもらえるので授業経験も積めます。まだ成熟していない萌芽的な分野の研究者にも手を差し伸べてくれる懐の深い研究所だと思っています。

FRISならではの面白さとは、何でしょうか。

木村

全く異なる研究分野の方々と話をすると、いろいろと文化が異なるので面白いですね。ものの考え方も違えば、教授をトップに置く専門分野のヒエラルキーの形も違うので驚きます。そういった異なる分野の研究者と交流したり、気軽に議論できたりするのはありがたいですね。

私の場合は、領域が近いようで遠かったプラズマ物理の研究者である川面洋平先生(前職:FRIS 助教/現職:宇都宮大学 准教授)とセミナーをしたり、議論したりしているうちにアイデアが成熟し、いくつかの共同研究を進めています。

FRISでの経験を踏まえ、どのような将来像を描いていらっしゃるのでしょう。

木村

宇宙研究において、1人でできる研究は限られているので、博士課程の学生やポスドクが常にいるようなグループを構築し、複数人で宇宙の謎に挑戦していきたいと思っています。また、日本でのマルチメッセンジャー宇宙物理の研究のコミュニティは大きくありません。多くの学生に宇宙物理の研究の面白さを伝え、楽しいと思ってもらいたいです。学生や若手研究者を育て、日本の高エネルギー天体物理学、特にマルチメッセンジャー宇宙物理学の将来を担う人材をどんどん輩出できる研究グループを作りたいですね。そのためには、東北大のような国内トップレベルの研究大学で終身雇用の教員になる必要があります。研究者として、仕事も家庭も大切にしながら、臨機応変に、独自に歩を進めていきたいです。

(2024年5月インタビュー実施)

PAGE TOP