東北大学
学際科学フロンティア研究所

公募研究

学際研究共創プログラム 研究概要(2023年度採択)

学際科学フロンティア研究所

田原 淳士 助教

採択課題名
有機物と無機物の狭間で活躍する “金属運搬有機分子” の効率的合成
実施年度 2023-2024

鉄などの金属は無機物だが、有機物で構成される生物にとって必須な元素である。しかしながら両者の本質的な親和性は低く、地球に豊富に存在する鉄の多くは水に溶けにくい状態 (Fe3+) で存在するため、そのまま生体系で活用することは不可能である。これに対し微生物は無機物である鉄金属を捕捉可能な有機分子を分泌し、栄養素として吸収することを可能にしている。これらの機能を有する有機分子は、ギリシャ語で「鉄運搬体」を意味するシデロフォアと呼ばれる。

ASP 2397 は糸状菌 Acremonium persicinum MF-347833 が産生するシデロフォアで、金属運搬能のみならず、近年では抗真菌薬としての応用も注目されている。自然界からの単離は限られているため、その機能開拓研究のためには人工合成による量的供給が求められるものの、その構造の複雑さから、既存の合成手法では多段階工程を要するため、その短工程化は解決すべき課題である。

ASP 2397 を含むシデロフォアは、複数のアミノ酸が環状に結合した環状ペプチドという構造から成る。天然及び非天然の環状ペプチド合成およびその機能評価において第一線で活躍する大澤助教(薬学研究科)は ASP 2397 の合成研究に取り組んでいるが、特に金属捕捉部位となる特殊アミノ酸の合成には多段階を要し改善の余地があった。

田原(学際研)は錯体化学を専門とし、これまで遷移金属触媒を用いた正孔輸送材料および発光材料の効率的合成法について報告してきた。この反応ではアミノ酸同士の結合によっても形成されるアミド(R2NC=Oー)骨格の還元がカギであることから、本技術が上記 ASP 2397 を構成する特殊アミノ酸の効率的供給に貢献できるのではないかと、大澤助教との研究討論を経て着想した。

本申請では、電材開発の触媒技術を天然物合成に応用するという、有機と無機を繋ぐ学際的アプローチによって実現するものであり、次世代創薬シーズである “金属運搬有機分子” の高効率合成を目的としている。

 
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