東北大学
学際科学フロンティア研究所

公募研究

国際共同研究支援 報告

中嶋 悠一朗(新領域創成研究部 助教)

フランス・ヴィルフランシュ、海洋研究所OOV
ドイツ・ハイデルベルク、欧州分子生物学研究所EMBL

期間/2017.11.18-12.03

 平成29年度「若手研究者国際共同研究支援プログラム」の助成を受けて、フランス・ヴィルフランシュ(写真A)にある海洋研究所 (Observatoire Océanologique de Villefranche-sur-Mer; 以下OOV) ならびにドイツ・ハイデルベルクの欧州分子生物学研究所 (European Molecular Biology Laboratory; 以下EMBL, 写真C) を訪問してきました。筆者は最近非モデル動物であるクラゲ類を用いた研究に着手しており、それら動物の長期飼育法の確立や遺伝子操作の手法を導入することが喫緊の課題でありました。そこで今回のプログラムの第一の目的は、クラゲ類や刺胞動物を用いた先駆的な研究を行っている研究機関で、実際の動物飼育やマイクロインジェクションを見せてもらい、実験技術を習得することにありました。

 OOVのHouliston博士と百瀬博士らのグループは、ヒドロ虫綱に属するクラゲであるClytia hemisphaericaを用いて遺伝子操作の系を立ち上げています(写真B)。最近ではClytiaの変異体系統やトランスジェニック系統の作成も進めており、クラゲ類で唯一といってもよいほど、様々な実験技術を整備しており、世界を見渡しても大変ユニークなグループです。OOVではClytiaの扱いや卵へのマイクロインジェクション法を教わりました。特に百瀬博士がインジェクションを効率的に行うために手作りで道具を揃えており、誰にでも比較的簡単にインジェクション操作ができる環境を構築していて感銘を受けました。空き時間にはOOVの研究者とディスカッションする時間があり、自分の過去の仕事をよく知っている人もいて、議論に花が咲きました。OOV は水産動物を用いた発生や生態の研究が盛んであり、普段聞けない話もあって勉強になりました。また最終日にはセミナーも行いましたが、聴衆からこれまでで一番多くの質問が出たように思います。

 EMBLでは、新グループリーダーであるIkmi博士を訪ねました。Ikmi博士は刺胞動物であるイソギンチャクNematostella vectensisに、効率的に変異体系統を作りだすことに世界で初めて成功し、現在は様々なトランスジェニック系統も確立しており、まさに非モデル動物の位置づけを変えるような研究を展開しています(写真D)。ここではNematostellaの飼育や卵の取り扱いを学ぶことができました。またEMBLが誇る、世界のリーディングサイエンティストらとディスカッションする時間も確保してもらい、エキサイティングな研究の話をすることができ、興奮しっぱなしの滞在でした。

 今回の出張を振り返ってみると、研究者として独り立ちしたときの高揚感や初心を思い出したように思います。学位を取得して久しいですが、海外の研究者たちと自分のアイデアや経験を交わして共感したときの喜びや、ポスドクとして海外留学をはじめるときのワクワク感などを思い出すことができ、本当に充実した出張だったといえます。今後は学んできた技術を活かし、筆者が維持するクラゲ類でも導入することで、本邦初のクラゲ変異体系統やトランスジェニック系統を作成したいと考えています。

 最後に、このような素晴らしい出張の機会を与えていただきました、若手研究者国際共同支援プログラムに心より感謝申し上げます。ありがとうございました!

写真A(左):ヴィルフランシュの街。海岸沿いの美しい風景。海洋研究所OOVも海岸沿いにある。
写真B(右):Clytiaを飼育する百瀬博士。Clytiaは一定の温度とエアレーションで管理されている。

写真C(左):EMBLのエントランスにたたずむ筆者。EMBLは世界のトップ研究機関の1つである。
写真D(右):Nematostellaを扱うIkmi博士。Ikmi博士はEMBLの新グループリーダーとして奮闘中。

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