公募研究
国際共同研究支援プログラム 報告
鈴木博人(新領域創成研究部 助教)
派遣先/台湾National Synchrotron Radiation Research Center (NSRRC)
期間/2022.11.19-11.27
Radiation Research Center(NSRRC)における3GeV放射光施設Taiwan Photon Source(TPS)に滞在し、放射光実験および現地の研究者との共同研究を行いました。
軟X線(100eV – 2000eV)領域の放射光発生に強みを持つ3GeV放射光施設は世界的に建設ラッシュとなっています。日本にほいても東北大学青葉山キャンパスにおいて次世代放射光施設NanoTerasuの建設が進み、2024年の運用開始が間近に迫っている状況です。3GeV放射光施設で行われる軟X線を用いた分光法のうち、近年発展の目覚ましい手法が共鳴非弾性X線散乱(Resonant Inelastic X-ray Scattering: RIXS)という手法です。この実験手法の特徴は非常に大きな分光器を用いることです。試料に放射光からの軟X線を照射し、試料位置からおよそ10メートルほどの位置にあるCCDで散乱光を観測します。CCDは回転アームに乗っており試料位置を中心に回転させることができます。散乱されてくる光のエネルギーが始めのエネルギーよりも小さくなる場合があり、その散乱強度は測定試料の性質を反映します。
この分光法は非常に多くのX線量を必要とするため最先端の放射光施設でなければ行うことができません。今回利用したTPS41Aは世界最高の性能を持つ装置の一つであり、その運営責任者であるDi-Jing Huang教授との共同研究を本支援プログラムを通して行いました。遷移金属酸化物の測定試料は東北大学多元物質科学研究所で合成されたものを持参しました。非常に薄い測定試料であったため実験がうまくいくかは共同研究者も半信半疑だったのですが、実際に測定を行ってみると非常に美しいスペクトルが得られ、RIXSの威力を再確認することとなりました。
現在得られたデータの解析・理論解釈を進めています。新たな研究プロジェクトの開始にも合意し今後も継続的な共同研究を遂行する予定です。本プログラムの支援に心より感謝いたします。

利用したTaiwan Photon SourceのResonant Inelastic X-ray Scattering装置。