新領域創成研究部

研究分野 | 多波長天文学 |
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主な研究テーマ |
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所属学会 | 日本天文学会 |
研究概要 | |
宇宙にはなぜブラックホール(以下、BH)が存在するのか? 近年の最先端の天文衛星や大型望遠鏡の活躍により、BHは宇宙の飾りではなく、宇宙全体の構造に関わる主要人物であることが分かってきました。例えば、強い重力源となる巨大BHは、普遍的に銀河の中心で見つかり、BHの質量は銀河やその集合体である銀河団の構造にも強く結びついています。驚くことに、BHと言えば周囲のガスを飲み込む印象が強いですが、実際はガスの重力エネルギーが熱や運動として転化されることで、ガスを吹き飛ばす「BHの風」という現象も起きています。このようにBHは星間ガスを集めては再供給する物質循環を引き起こし、まるで銀河や銀河団の心臓のような役割を果たしていることが予想されています。 私の研究の目的は、BHにより循環する物質の運動(質量や速度)と構成要素(元素組成比)の全体像を解き明かし、BHと人類誕生の関係を紐解くことです。近年、私を含め世界中の天文学者が開発に取り組んできたXRISM衛星は2023年9月に打ち上がり、従来の装置より約30倍高い波長分解能を持つX線精密分光を可能にしました。BHの近くではX線放射が卓越し、その運動は重元素由来の輝線・吸収線の強度やドップラー効果に反映されるので、BH周囲のガスの質量や速度を精密に測定できます。BHから遠ざかるガスは徐々に温度が下がり、異なる波長で輝くため、世界中の多波長の最先端装置も駆使して全体構造を調べます。X線では重元素の蛍光輝線を用いて「元素組成比」も測定でき、物質の由来を突き止める種族判定や、太陽系を生み出す素材も探査します。最終的には、BHが銀河や銀河団、さらには太陽系や人類の誕生に果たした役割の謎に迫ります。 |