トピックス
-
会議発表・論文・出版2021.03.29
細胞表面を覆う膜(細胞膜)は、光では観察できない微小なスケールで、細胞と外環境の間の物質のやり取りを制御しています。この細胞膜の制御を突破し、ドラッグデリバリーなど特定の薬剤や物質を細胞内に輸送するためのツールの一つとして、細胞膜を透過できるペプチド(膜透過性ペプチド)が利用されています。しかし、ナノスケールで起きる細胞膜での物質の透過に関わる形状変化を観察することは難しく、膜透過性ペプチドの重要性に反して、細胞内に流入する過程の詳細や細胞膜の形態への影響は完全には理解されていません。 新領域創成研究部の井田大貴助教、東北大学 材料科学高等研究所 熊谷明哉准教授、金沢大学 ナノ生命科学研究所 高橋康史教授、京都大学 化学研究所 二木史朗教授らの研究グループは、細胞にダメージを与えないで細胞表面のナノ形状を計測可能な走査型イオンコンダクタンス顕微鏡と、焦点面での標識分子動態を可視化できるスピニングディスク式の共焦点レーザー走査顕微鏡を融合した装置を開発、膜透過性ペプチドの流入領域で生じる形状変化を直接観察し、その詳細を明らかにしました。本研究成果は、分析化学の国際的な学術誌『Analytical Chemistry』にて3月25日(米国東部時間)に掲載され、本学の他、科学技術振興機構、金沢大学、京都大学よりプレスリリースされました。 本研究の模式図(左)とSICMによる形状測定結果(右)。 コブ状構造の脇に陥入構造があり、ペプチド流入との相関が示された。 論文情報: Hiroki Ida, Yasufumi Takahashi, Akichika Kumatani, Hitoshi Shiku, Tomo Murayama, Hisaaki Hirose, Shiroh Futaki and Tomokazu Matsue, "Nanoscale Visualization of Morphological Alteration of Live-Cell Membranes by the Interaction with Oligoarginine Cell-Penetrating Peptides", Analytical Chemistry DOI:10.1021/acs.analchem.0c04097
-
会議発表・論文・出版2021.03.25
ブラックホールの画像を初めて撮影したイベント・ホライズン・テレスコープ (Event Horizon Telescope; EHT) プロジェクトが、楕円銀河 M87 の中心にある巨大ブラックホールのごく近傍で、電波の偏光を捉えることに成功しました。これは、ブラックホールの周りに整列した磁場が存在することを初めて直接的に示す成果です。この観測結果は、5500万光年離れた銀河の中心からどうしてパワフルなジェットを噴出できるのかを説明する鍵となります。 EHTプロジェクトには、理論解析班に東北大学学際科学フロンティア研究所の當真賢二准教授(大学院理学研究科兼務)が参加しています。 この成果は、2019年4月に発表された成果に続く、EHTプロジェクトによる研究成果です。2021年3月24日にアストロフィジカル・ジャーナル・レターズ (The Astrophysical Journal Letters) から2編の論文として公開されました。また、世界各国の関係機関より、プレスリリースされました。 M87ブラックホール近傍の偏光画像。白線の向きは偏光の方向と一致し、ブラックホール周辺の磁場の向きと関係している。 All Rights Reserved:Event Horizon Telescope Collaboration 論文情報: "Polarization of the ring", The Astrophysical Journal Letters DOI: 10.3847/2041-8213/abe71d "Magnetic Field Structure Near The Event Horizon", The Astrophysical Journal Letters DOI: 10.3847/2041-8213/abe4de
-
受賞2021.03.22
新領域創成研究部の楠山譲二助教が、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)/The New York Academy of Sciences(NYAS)共催の令和2年度医療分野国際科学技術共同研究開発推進事業(Interstellar Initiative)にて、Outstanding Team Presentation Awardを受賞しました。 本事業は、日本の若手研究者が世界各国の若手研究者とネットワークを構築し、研究計画を立案、国際的な研究グラントに応募して国際共同研究に繋げることを趣旨とするプログラムです。日本を含む世界中から公募、審査で選抜された若手研究者が国際的・学際的チームを構成し、各チームはAMED/NYASが招聘する著名研究者(メンター)の指導のもと、2回のワークショップを経て、医療分野の難課題を解決する研究計画を立案しました。 楠山譲二助教はNational University of SingaporeのWu Xi Vivien助教、Cooper University HospitalのDilip Shah助教とで、研究計画 ”Beneficial Effects of Exercise in the Middle Age on Overall Health Outcomes in Aging”を立案、予備データ収集を行い、最終ワークショップでOutstanding Team Presentation Awardに選出されました。今後、AMEDからは追加研究予算が配分され、国際グラントへの応募と中長期的な国際共同研究を継続していきます。 医療分野国際科学技術共同研究開発推進事業(Interstellar Initiative): https://www.amed.go.jp/program/list/20/01/005.html https://www.nyas.org/landing/the-interstellar-initiative-aligning-young-stars-of-science-to-tackle-the-world-s-most-critical-medical-challenges/
-
受賞2021.03.22
新領域創成研究部の楠山譲二助教は「岩垂育英会賞」を受賞しました。 本賞は、歯科基礎医学分野で過去6年の間に博士の学位を取得し、創的な内容の研究に従事して顕著な功績を挙げて活躍している若手歯科基礎医学研究者に対して、その功績を顕彰し、今後の歯科基礎医学研究の発展を祈念するものです。 参考情報: 一般財団法人岩垂育英会 https://web.dent.osaka-u.ac.jp/pharm/iwadare.html
-
会議発表・論文・出版2021.03.15
新領域創成研究部のアリム トヘティ助教は、書籍「Islam in China: A History of European and American Scholarship」をGorgias Pressより出版いたしました。 本書では、さまざまな時代の西洋における中国のイスラム研究の歴史的発展を探求しています。中国と外国の関係の発展、文化交流の歴史などを反映して、独自の社会学的およびイデオロギー的背景によって、各時代が定義されています。 書名:Islam in China: A History of European and American Scholarship 出版社:Gorgias Press 発行日:2021年2月22日 ISBN: 978-1-4632-4329-6 https://www.gorgiaspress.com/islam-in-china-2
-
受賞2021.03.11
新領域創成研究部の郭 媛元助教が、下記の第31回トーキン科学技術賞を受賞しました。 「トーキン科学技術賞 最優秀賞」 トーキン科学技術賞は、宮城県内の工学分野の若手研究者に贈られる賞であり、トーキン財団特別賞は、材料・部品分野の研究であって、先駆的研究を行った研究者、新境地を開いた研究者に贈られます。 研究テーマ:脳機能の解明に向けた多機能ファイバーセンサの開発 受賞情報: 株式会社トーキン ニュースリリース「第31回 トーキン科学技術賞贈賞式を開催しました」
-
研究会等のお知らせ2021.03.08
オンライン開催 FRIS Hub Meetingは、FRISの研究者全員が参加する研究発表セミナーで、月に一度8月を除く毎月第4木曜日に開催しています。これまで参加者はFRIS内の研究者を対象としていましたが、2019年12月より、対象を東北大学の研究者、学生へと広げました。 また、2021年1月からは学際融合東北拠点のTI-FRIS Hub Meetingと合同で開催しています。 言語は日本語と英語を混ぜて使用しています。異分野研究者同士では共通の常識や考え方は望めません。聴衆は発表中にどんどん質問し、討論し、理解を深めるようにしています。積極的にご参加ください。 第19回 FRIS Hub Meeting(TI-FRIS Hub Meetingとの合同開催) 日時:2021年3月25日(木)11:00-12:00 開催方式:オンライン(Zoom) 事前登録が必要になります。参加申し込みフォームよりご登録ください。 発表者: 梨本 裕司 助教(学際科学フロンティア研究所/生命・環境) 発表タイトル: からだの「外」を「中」に近づける (Engineering a better culture environment outside the body) 要旨: ヒトの細胞培養の成功から今年で70年が経ちます。細胞培養は、からだの外で、からだの中の現象を知るために行われてきました。しかし、培養された細胞は、からだの中とは異なる挙動を取ることが報告され、モデルとしての意義が見直されています。からだの外の環境を中に近づけるための培養法として、工学の微細加工技術の応用が期待されています 。微細加工技術が扱うスケールが、細胞のサイズと一致するためです。本セミナーでは、マイクロ流体デバイスと探針型デバイスを例として、細胞培養、細胞計測の学際研究をご紹介したいと思います。 ◆FRIS Hub Meetingについて
-
会議発表・論文・出版2021.03.05
新領域創成研究部 (電気通信研究所兼務)山根結太助教は、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 先端基礎研究センター スピン-エネルギー変換材料科学研究グループ 家田淳一研究主幹(東北大学電気通信研究所客員教授兼任)と共同で、電子回路の基本的な性質「インダクタンス」を電子スピンの特性を活用することにより広範囲に制御する新しい方法を見出しました。 インダクタンスとは、導線を流れる電流の変化が誘導起電力となって現れる性質です。インダクタンスを得るためのねじれた導線(コイル)からなる素子をインダクタといい、電流の急激な変化をバネのように安定化することから、電源回路や高周波フィルタ、変圧器等のパワーエレクトロニクス素子(電力制御用半導体素子)に幅広く利用されています。古典電磁気学によると、誘導起電力の大きさは、コイルの巻き数の2乗とコイルの断面積に比例するため、強いインダクタンスを得るためには素子のサイズが自ずと大きくなります。すなわち、小型で強いパワーエレクトロニクス素子の実現には原理的な制限が存在しています。ごく最近、量子技術に基づく新しいインダクタの実現方法である「創発インダクタ」が提案され、従来技術の原理的な制限を克服する試みがはじまりました。しかし、この新しい実現方法には未だ謎が多く、観測された実験結果と基礎理論の間には未解明のギャップがありました。 そこで本研究では、スピントロニクスにおける重要因子の一つとして知られる「ラシュバ型のスピン軌道結合」の効果を基礎理論に取り込むことで、創発インダクタに与える影響を探りました。その結果、第一にラシュバスピン軌道結合がインダクタンスを飛躍的に増幅すること、第二に磁気の感じる摩擦の効果を通じてインダクタンスの符号を正負どちらにも設計できることを突き止めました。これらにより、未解明だった観測結果の理解を大きく進展させ、創発インダクタを最適化するための設計指針を与えることに成功しました。また、負のインダクタンスを持つ素子は、通常の正のインダクタンスを持つ素子とは逆の作用を持ちます。従って、負のインダクタンスには回路に生じた不要な(正の)インダクタンス由来の電磁ノイズを打ち消す効果があり、高周波回路等への応用が長らく提唱されていたものの、従来の単一素子では実現不可能とされていました。この点でも、本研究による負のインダクタンス発現の新原理発見が果たす意義は大きいと考えられます。 本研究は、スピンを介したエネルギー変換技術の利用により、従来技術では実現が困難であった集積回路等の極微領域での電源回路や負のインダクタといった魅力的な機能を実現させる「パワースピントロニクス」の開発を切り拓くものです。今後さらに研究を進めることにより、情報集約型の未来社会(Society5.0)を支える基盤量子技術の一環として、幅広く利活用されるようになることが期待されます。 本研究成果は、米国物理学会誌「Physical Review B」のLetterとして出版に先立ち、Editors’ Suggestionに採択されるとともに3月4日(現地時間)にオンライン掲載され、同日に日本原子力研究開発機構および本学よりプレスリリースされました。 論文情報: Jun’ichi Ieda, and Yuta Yamane, "Intrinsic and extrinsic tunability of Rashba spin-orbit coupled emergent inductors", Physical Review B. DOI: 10.1103/PhysRevB.103.L100402 https://journals.aps.org/prb/abstract/10.1103/PhysRevB.103.L100402 プレスリリース: 日本原子力研究開発機構 https://www.jaea.go.jp/02/press2020/p21030502/ 東北大学 http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2021/03/press20210305-01-inductors.html
-
会議発表・論文・出版2021.02.26
多孔質炭素は、エネルギー工学及び環境科学分野で最も広く利用されている材料の1つです。 多孔質構造の形状とトポロジーを原子スケールで制御した3D多孔質炭素の合成は非常に重要ですが、技術的には依然困難です。新領域創成研究部の韓久慧助教は、米国ジョンズホプキンス大学のMingwei Chen教授と共同で、特別な脱合金化アプローチを使用し、新しいナノ多孔質炭素材料を開発しました。この新しい炭素材料は、3次元的な共連続型多孔性のトポロジーを有しています。 これは、広い範囲で任意に孔径を調整できるメソポアと、オングストロームスケールの精度で孔径を調整できるマイクロポアの両方で構成されています。この新しい炭素材料は、機能材料として様々な応用が見込まれます。一例として、Naイオン電池のアノード材として使用すると、高速なイオン拡散が可能になり、優れた電気化学的性能が得られました。 本成果は学術雑誌 Chemistry of Materialsに2021年2月9日に掲載されました。 掲載論文: Jiuhui Han, Hongping Li, Zhen Lu, Gang Huang, Isaac Johnson, Kentaro Watanabe, and Mingwei Chen. “3D Bimodal Porous Amorphous Carbon with Self-Similar Porosity by Low-Temperature Sequential Chemical Dealloying”, Chemistry of Materials, doi: 10.1021/acs.chemmater.0c04328 https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.chemmater.0c04328
-
会議発表・論文・出版2021.02.19
アルコールは脳の報酬系に作用し、一時的な楽しい気分をもたらします。しかし、飲みすぎが習慣化すると飲酒量を自分の意思でコントロールできなくなり、アルコール依存症を発症するリスクが増大します。新領域創成研究部の市之瀬敏晴助教(生命科学研究科兼任)らのグループは、ショウジョウバエをモデルに、飲酒量が日に日に増大する脳内メカニズムを発見しました。アルコールを数日間にわたって繰り返し摂取したハエでは、脳内で快楽を伝達する物質であるドーパミンの受容体の量が増えていました。また、人工的にドーパミン受容体の量を増やすと、過剰にアルコールを摂取するようになりました。ドーパミン受容体は餌の匂いの記憶など脳の高次機能に重要ですが、本研究により、その過剰な活性化は飲酒量の増大というリスクをもたらすことが判明しました。 本研究成果をまとめた論文は2月9日付で英科学誌Scientific Repotsに掲載され、2月18日に本学よりプレスリリースされました。 論文情報: Mai Kanno, Shun Hiramatsu, Shu Kondo, Hiromu Tanimoto, Toshiharu Ichinose, " Voluntary intake of psychoactive substances is regulated by the dopamine receptor Dop1R1 in Drosophila", Scientific Reports, 11(1). DOI: 10.1038/s41598-021-82813-0 https://www.nature.com/articles/s41598-021-82813-0 プレスリリース: 東北大学 http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2021/02/press20210218-02-alc.html 東北大学大学院生命科学研究科 https://www.lifesci.tohoku.ac.jp/research/results/detail---id-49862.html