トピックス
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会議発表・論文・出版2021.08.20
微小な流体デバイス内で、ヒトの組織構造を再構築する試みが盛んです。生体模倣システム(Microphysiological system,MPS)、またはorgan-on-a-chipと呼ばれるこの手法では、ヒト体内の細胞応答も高精度な評価が可能です。しかし多くの研究は、「組織構造をどのように模倣するか」に注力しており、構築したMPSを評価するためのセンシングシステムの開発は遅れていました。 東北大学学際科学フロンティア研究所の梨本裕司助教、大学院工学研究科の珠玖仁教授、大学院環境科学研究科の阿部充里さん(元大学院生)、藤井遼太さん(元大学院生)らの研究グループは、金沢大学ナノ生命科学研究所の高橋康史教授、スペインのInstitute for Bioengineering of CataloniaのJavier Ramon Azon教授らと共同で、走査型プローブ顕微鏡の1種である、走査型電気化学顕微鏡(SECM)、走査型イオンコンダクタンス顕微鏡(SICM)を用い、MPS内に構築した血管モデルの細胞機能の透過性や形状を取得するセンシング法の開発に成功しました。 本研究成果は、生体医工学分野の国際的な学術誌である『Advanced Healthcare Materials』にて、2021年8月20日(日本時間)に掲載されました。 開発した計測システム。(a)概略図、(b)MPS内の血管内皮細胞の形状計測例。 論文情報: Yuji Nashimoto, Minori Abe, Ryota Fujii, Noriko Taira, Hiroki Ida, Yasufumi Takahashi, Kosuke Ino, Javier Ramon Azcon, Hitoshi Shiku Advanced Healthcare Materials "Topography and Permeability Analyses of Vasculature-on-a-Chip using Scanning Probe Microscopies" DOI: 10.1002/adhm.202101186 https://doi.org/10.1002/adhm.202101186 プレスリリース: 東北大学 https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2021/08/press20210820-00-probe.html 東北大学大学院工学研究科 https://www.eng.tohoku.ac.jp/news/detail-,-id,1955.html 東北大学大学院環境科学研究科 http://www.kankyo.tohoku.ac.jp/news/news-award.html#20210820
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会議発表・論文・出版2021.08.19
チタン酸バリウムは、電場印可によって分極方向を反転することができる強誘電体であり、スマートフォンや自動車用の積層セラミックコンデンサなど幅広い応用をもち、産業的に重要な材料です。分極反転はミクロンサイズの分極ドメインの動きによるものと考えられています。その一方で、このドメイン構造の内部には、さらに数ナノメーターサイズの分極ナノドメインが存在することが報告されており、分極ナノドメインの電場応答はこれまで明らかになっていませんでした。 東北大学 多元物質科学研究所の森川大輔助教と学際科学フロンティア研究所の津田健治教授のグループは、透過型電子顕微鏡を用いた収束電子回折法を用いて分極ナノドメインを可視化し、分極ナノドメイン分布の電場応答を観測することに成功しました。 この研究成果から、強誘電体ナノドメインの誘電応答機構の解明が進み、さらなる高機能材料の開発および機能向上に寄与すると期待されます。 本研究成果は、令和3年8月3日(米国東部時間)に、米国物理学協会(AIP)の科学誌「Applied Physics Letters」に論文掲載され、8月19日に本学よりプレスリリースされました。 論文情報: Daisuke Morikawa and Kenji Tsuda, "Electric-field response of polar nanodomains in BaTiO3", Applied Physics Letters, 119, 052904 (2021) DOI: 10.1063/5.0058977 https://aip.scitation.org/doi/full/10.1063/5.0058977 プレスリリース: 東北大学 http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2021/08/press20210819-06-nm.html 東北大学 多元物質科学研究所 http://www2.tagen.tohoku.ac.jp/lab/news_press/20210819/
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会議発表・論文・出版2021.08.18
リチウム(Li)内包フラーレン(Li@C60)は、炭素原子(C)60個がサッカーボール状に連なった分子の内部にLi+イオンを内包した構造を持ち、次世代の有機エレクトロニクス材料として期待されている材料です。近年、Li@C60に関して、超原子電子軌道(SAMO)と呼ばれる、分子外部に大きく広がった特異な電子軌道が注目されています。薄膜などのLi@C60の集合体では、SAMOは固体全体に広がることができるため、この軌道を利用した電子の伝導が実現できれば、高効率の有機トランジスタや有機太陽電池など、新たな有機エレクトロニクスの可能性が拓けます。 金属内包フラーレンは、フラーレン研究の初期から長く研究が続けられてきましたが、材料の高純度化が非常に困難であり、特に高純度のLi@C60の薄膜はこれまで実現できていませんでした。新領域創成研究部の上野裕助教は、筑波大学およびイデア・インターナショナル株式会社との共同研究において、材料と蒸着技術の最適化により、高純度のLi@C60薄膜の作製に初めて成功しました。この薄膜を走査トンネル顕微鏡で観察したところ、Li@C60が極めて均一に、秩序的に配列している様子が分かりました。また、このような高い純度と秩序構造を持つLi@C60薄膜の電子状態を分子レベルで計測した結果、Li@C60のSAMOが、理論による予測通りに、薄膜全体に広がっていることを突き止めました。 本研究成果は、いまだ始まったばかりである分子固体のSAMOに対する基礎研究における重要な第一歩であり、SAMOを利用した新原理に基づく有機エレクトロニクスの開拓につながることが期待されます。研究内容をまとめた論文は8月11日に「The Journal of Physical Chemistry Letters」に掲載され、8月18日に筑波大学および本学よりプレスリリースされました。 論文情報: Naoya Sumi, Artem V. Kuklin, Hiroshi Ueno, Hiroshi Okada, Tomoyuki Ogawa, Kazuhiko Kawachi, Yasuhiko Kasama, Masahiro Sasaki, Pavel V. Avramov, Hans Ågren, Yoichi Yamada, "Direct Visualization of Nearly-Free-Electron States Formed by Superatom Molecular Orbitals in Li@C60 Monolayer", The Journal of Physical Chemistry Letters DOI: 10.1021/acs.jpclett.1c02246 https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.jpclett.1c02246 プレスリリース: 東北大学 http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2021/08/press20210818-01-li.html
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研究会等のお知らせ2021.07.30
[Venue] ONLINE – Zoom The 24th FRIS Seminar / TI-FRIS Lecture Course on Academic Impact “What is Research Impact? / Creating a High Research Impact Plan” at 10:00-15:00 on 23rd Aug. 2021 To register: https://forms.gle/YYR1Lbr7rdxo3BYc7 Deadline for registration: 12:00(noon) on 17th Aug. 2021 Lecturer: Dr. Rintaro OHNO, Senior Assistant Professor, Strategic Planning Office, Tohoku University Lecture title: “What is Research Impact?” (for Introductory Session) “Creating a High Research Impact Plan” (for Practical Session) Language: English (Japanese is also partially used.) Contents of the lecture: [Introductory Session] How research impact is perceived from the perspective of university management is explained along with various data. [Practical Session] We will discuss what measures can be taken in the process of conducting academic research to make it a high impact. Before the lecture, participants will be presented with a specific theme of the discussion and asked to make preliminary considerations. Contact: Dr. Suzuki or Dr. Fujiwara, research administrators of FRIS ura*fris.tohoku.ac.jp (please replace * with @.)
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会議発表・論文・出版2021.07.26
次世代蓄電池であるマグネシウム蓄電池の正極材料候補として酸化物系材料が検討されていますが、より高容量を実現できる硫黄系正極材料の研究が近年盛んに行われています。 東北大学金属材料研究所の下川航平助教(本務:学際科学フロンティア研究所)、古橋卓弥氏(東北大学大学院工学研究科 修士課程学生)、および市坪哲教授らの研究グループは、同研究所の加藤秀実教授ら、産業技術総合研究所の松本一上級主任研究員と共同で、電気化学反応を利用したトップダウン的手法により、マグネシウム蓄電池正極に適した高性能な硫黄/硫化物複合材料の作製に成功しました。この硫黄系複合材料は、マグネシウム蓄電池用正極材料として蓄電容量、充放電速度、サイクル特性などの点において高い性能を有することが示されました。また、充電直後の硫黄の非平衡状態(高いエネルギー状態)を利用することにより、熱力学的に想定される電位よりも高電位で放電できることも示されました。これは硫黄の新しい利用法を示すものであり、今後の硫黄系正極材料の開発に拍車をかける結果であると期待されます。 本成果は、2021年7月26日10時(英国時間)に英国王立化学会の学術誌『Journal of Materials Chemistry A』にオンライン掲載されました。 鉄脱離により二硫化鉄粒子中に生成した細孔部でマグネシウムとの反応が生じていることを示す放電後の電極の断面観察結果 論文情報: Kohei Shimokawa, Takuya Furuhashi, Tomoya Kawaguchi, Won-Young Park, Takeshi Wada, Hajime Matsumoto, Hidemi Kato, Tetsu Ichitsubo Journal of Materials Chemistry A "Electrochemically Synthesized Liquid-Sulfur/Sulfide Composite Materials for High-Rate Magnesium Battery Cathodes" DOI: 10.1039/d1ta03464b https://doi.org/10.1039/d1ta03464b プレスリリース: 東北大学 https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2021/07/press20210726-02-mg.html 東北大学金属材料研究所 http://www.imr.tohoku.ac.jp/ja/news/results/detail---id-1349.html 科学技術振興機構 https://www.jst.go.jp/pr/announce/20210726/index.html
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研究会等のお知らせ2021.07.13
オンライン開催 FRIS Hub Meetingは、FRISの研究者全員が参加する研究発表セミナーで、月に一度8月を除く毎月第4木曜日に開催しています。これまで参加者はFRIS内の研究者を対象としていましたが、2019年12月より、対象を東北大学の研究者、学生へと広げました。 また、2021年1月からは学際融合東北拠点のTI-FRIS Hub Meetingと合同で開催しています。 言語は日本語と英語を混ぜて使用しています。異分野研究者同士では共通の常識や考え方は望めません。聴衆は発表中にどんどん質問し、討論し、理解を深めるようにしています。積極的にご参加ください。 第22回 FRIS Hub Meeting(TI-FRIS Hub Meetingとの合同開催) 日時:2021年7月26日(月)11:00-12:00 開催方式:オンライン(Zoom) 事前登録が必要になります。参加申し込みフォームよりご登録ください。 発表者: 川面 洋平(東北大学 学際科学フロンティア研究所 助教/先端基礎科学) 発表タイトル: プラズマ乱流 : 非線形でマルチスケールな世界 (Plasma turbulence: A nonlinear and multiscale world) 要旨: 宇宙に存在する“目に見える”物質のうち99%はプラズマによって出来ている。そのためプラズマの持つ物理的性質を理解することは、多様なシステムを統一的に理解することに繋がる。しかしプラズマの持つ多様性は、プラズマが極めて複雑な非線形系であることの裏返しである。私は非線形現象の代表例である「乱流」を対象に研究を行っている。プラズマ乱流はマクロとミクロが連結したマルチスケールな難題であり、これにに挑むためには学際的なアプローチが鍵となる。今回のHub meetingでは、異分野研究者に向けたプラズマ乱流の基本的な話から最新の研究トピックまで紹介する。 ◆FRIS Hub Meetingについて
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会議発表・論文・出版2021.07.05
粒子を単原子という極限にまで小さくすると、元素の利用効率を最大化し、さらに、新たな化学的性質をもたらす可能性があります。そのため、単原子触媒と呼ばれる単一原子の形の触媒が、触媒反応の効率と選択性を改善するために、近年広く研究されています。 新領域創成研究部の韓久慧助教、上海交通大学(中国)のPan Liu教授とジョンズ・ホプキンス大学 (米国) の Mingwei Chen 教授の共同チームは、3D ナノ多孔質グラフェン上にNiおよびCu原子を担持させた単一原子触媒を開発しました。窒素ドープしたグラフェンマトリックス内のCuおよび Ni 単一原子の相乗効果により、この材料は酸素還元反応(ORR)に対して並外れた触媒活性を示します。また、この単原子触媒を空気極に使用した充電式空気亜鉛電池は、優れたエネルギー効率、高い出力密度、高いサイクル安定性を示します。本研究で金属空気電池のための効率的で耐久性のある単原子ORR触媒の開発の促進が期待されます。 本成果は2021年6月28日付で「Nanoscale」に掲載されました。 掲載論文: Yongtai Cheng, Haofei Wu, Jiuhui Han, Siying Zhong, Senhe Huang, Shufen Chu, Shuangxi Song, Kolan Madhav Reddy, Xiaodong Wang, Shao-Yi Wu, Xiaodong Zhuang, Isaac Johnson, Pan Liu, and Mingwei Chen. “Atomic Ni and Cu co-anchored 3D nanoporous graphene as an efficient oxygen reduction electrocatalyst for zinc-air batteries”, Nanosclae, 2021, doi: 10.1039/D1NR01612A https://pubs.rsc.org/en/Content/ArticleLanding/2021/NR/D1NR01612A#!divAbstract
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研究会等のお知らせ2021.07.02
全領域合同研究交流会 特別企画「第6回 FRIS/DIARE Joint Workshop」 FRISとDIAREのメンバーは交流と研究テーマ創造を目的に活発な議論を行っています。このJoint Workshopでは、多くの研究者が一堂に会し、学内で現在行われている様々な学際研究を網羅的に知り、交流を広げることを目的としています。どなたも参加歓迎いたします。 日時:令和3年 8月 2日(月)9:50~16:00 主催:学際科学フロンティア研究所、学際高等研究教育院 実施方法:オンライン Zoom(全体アナウンス、複数の談話用ブレイクアウトルーム) バーチャルポスターセッション(Copyright by 甲斐洋行 AIMR助教) https://www.virtual-poster.net/ 発表者:学際科学フロンティア研究所(FRIS)教員 学際高等研究教育院(DIARE)教育院生 ほか ポスター紹介のためのショートプレゼンは行いません。事前に各自1ページpdfファイルをGoogleスプレッドシートを通じて公開し、それを参加者にチェックしておいてもらうことにします。 参加登録方法: 発表タイトル(日本語・英語)を提出(アブストラクトは不要)。発表タイトルは形式的なものではなく、catchyなものにしましょう。 提出の仕方はFRIS, DIAREのメーリングリストでお知らせします。 ポスターはA0~A4縦サイズのPNG画像で作成してください。 顔写真、研究概要、提供できる技術、求めている技術を書いた1ページpdfファイルをGoogleスプレッドシートで共有します。テンプレートをメーリングリストで送付しますので、それを使って作成してください。 ポスターと1ページpdfスライドはできるだけ日本語・英語併記でお願いします。 プログラム: 09:50-10:00 [Zoom] 開会の挨拶、全体アナウンス 10:00-10:45 [Zoom] 招待講演1:林 真貴子 氏(NYU Langone Medical Center; 教育院OG) 「七転八倒(起?)アメリカ研究生活記ー学際経験を総動員し生き延びたこの1年ー」 10:45-12:00 [Virtual poster session] ポスターセッション1 12:00-13:00 昼休憩 13:00-13:45 [Zoom] 招待講演2:熊谷 将吾 氏(環境科学研究科 助教; 教育院OB) 「ケミカルリサイクルのフロンティアを追い求めて-研究教育院生採択からの10年間-」 13:45-15:00 [Virtual poster session] ポスターセッション2 15:00-16:00 [Zoom] グループディスカッション、フリー交流 問い合わせ先 学際科学フロンティア研究所 企画部 @ ■全領域合同研究交流会について
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会議発表・論文・出版2021.07.02
近年、フェリ磁性金属薄膜磁石にフェムト秒の時間幅を有する光パルスを照射すると薄膜磁石の極性を高速、高エネルギー効率かつ無磁場で反転できることが実証されてきました(下図)。その反転メカニズムはフェリ磁性体の元素間の角運動量交換によるものとされてきました。 新領域創成研究部の飯浜賢志助教はロレーヌ大学ジーンラムール研究所のStéphane Mangin教授グループと共同で薄膜積層構造のスピン角運動量移送を利用することで難しいと考えられてきた強磁性薄膜磁石の極性反転を実現してきました。今回、超短光パルスを照射した際の金属薄膜磁石の極性反転に関するメカニズムと近年の様々な金属薄膜磁石における報告の総説をしました。 本成果は学術雑誌「Journal of the Physical Society of Japan」に2021年6月30日付でオンライン先行掲載されました。 掲載論文: Satoshi Iihama et al. “Spin-transport Mediated Single-shot All-optical Magnetization Switching of Metallic Films” Journal of the Physical Society of Japan, Vol. 90, 081009 (2021) Doi: 10.7566/JPSJ.90.081009
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会議発表・論文・出版2021.07.02
新領域創成研究部の佐藤佑介助教と先端学際基幹研究部の鈴木勇輝助教の共著による総説論文が日本生物物理学会の欧文誌「Biophysics and Physicobilogy」に掲載され、表紙に採用されました。 細胞の構造や機能の多くは分子の自己集合により実現されています。細胞のように自律的に振る舞う分子システムを人為的に設計し創り出す上で有力な技術がDNAナノテクノロジーです。本総説では、DNA分子の自己集合を用いた動的な人工分子システムの構築について、最新の研究動向と展望を議論しました。 Yusuke Sato*, Yuki Suzuki*, “DNA nanotechnology provides an avenue for the construction of programmable dynamic molecular systems”, Biophysics and Physicobiology 18, 116-126 (2021), DOI: 10.2142/biophysico.bppb-v18.013 https://www.jstage.jst.go.jp/article/biophysico/18/0/18_bppb-v18.013/_article