トピックス
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会議発表・論文・出版2024.03.27
PI3K(ホスホイノシトール3-キナーゼ)は、細胞の運動や増殖、がん化などに関わる重要な酵素で、抗がん剤のターゲットとなるなど医学的にも重要な分子です。東北大学 学際科学フロンティア研究所の松林英明助教らは、PI3Kのアミノ酸配列の中に、従来知られていなかったAP2結合配列を発見し、このAP2結合配列が、PI3K本来の酵素活性とは別に、細胞膜を細胞内側へ取り込む働き(エンドサイトーシス)を誘発することを明らかにしました。さらにAP2と結合できないように改変したPI3Kは、細胞をより速く運動させることから、PI3KとAP2との結合が細胞運動のブレーキとして働くことが示されました。これまでPI3Kは、その酵素活性によって細胞運動のアクセルとして機能すると考えられてきましたが、本研究の成果によって、PI3Kには、AP2結合配列を介したブレーキ機構も内蔵されていることが分かりました。PI3Kの新たな制御機構が明らかになったことで、PI3Kが関わる疾患の機序解明や、それらの治療薬開発のための知見となることが期待されます。 本研究成果は、オンライン科学誌Nature Communicationsにて、2024年3月23日付で公開されました。 論文情報: タイトル:Non-catalytic role of phosphoinositide 3-kinase in mesenchymal cell migration through non-canonical induction of p85β/AP2-mediated endocytosis 著者: Hideaki T. Matsubayashi*, Jack Mountain, Nozomi Takahashi, Abhijit Deb Roy, Tony Yao, Amy F. Peterson, Cristian Saez Gonzalez, Ibuki Kawamata, Takanari Inoue* *責任著者:東北大学 学際科学フロンティア研究所 助教 松林英明 ジョンズホプキンス大学 医学系研究科 教授 井上尊生 掲載誌:Nature Communications DOI:10.1038/s41467-024-46855-y URL:https://www.nature.com/articles/s41467-024-46855-y プレスリリース: 東北大学 http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2024/03/press20240327-03-cell.html 科学技術振興機構(JST) https://www.jst.go.jp/pr/announce/20240327-3/index.html
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会議発表・論文・出版2024.03.26
国立大学法人東北大学学際科学フロンティア研究所と株式会社ElevationSpaceが取り組む、高い安全性と低コストを両立するハイブリッドスラスタ実現に向けた共同研究について、2023年10月~2024年2月にかけて、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構の協力のもと実施した、実機に近い試験モデルによる燃焼試験に成功したことをお知らせします。 軌道離脱を実現するような高い推力と、小型衛星に搭載可能な大きさ、経済性、安全性を兼ね備えるハイブリッドスラスタは、世界でも宇宙実証に至っている例がなく(※1)、ElevationSpaceが2025年に打ち上げを予定している無人小型衛星で世界に先駆けた実用化を目指します。 本ハイブリッドスラスタは、打ち上げ数の急増する小型衛星市場で高い需要が見込まれるほか、月以遠への高頻度な宇宙探査実現にも寄与すると考えられ、我が国の宇宙産業市場の拡大や宇宙開発領域における国際競争力向上のため、研究開発を加速していきます。 東北大学学際科学フロンティア研究所において本研究をリードしている齋藤勇士助教は次のようにコメントしています。 「本試験実施にあたりご尽力いただきました皆様に感謝申し上げます。この試験により、共同研究先である株式会社ElevationSpaceと共に日夜研究開発を進めてきたハイブリッドスラスタの性能を実際に確認することができ、実用化に向けて大きく前進できたことを大変嬉しく思います。 ハイブリッドスラスタは、他の化学スラスタと比較して魅力的な性能を持つことが研究レベルで明らかになっている一方で、実用レベルには未だ達していませんでした。これは、ハイブリッドスラスタの技術成熟度レベル(TRL)が低いことが原因だと考えられます。また、TRLが向上しない限りは他の宇宙ミッションでの採用が見込めず、革新的な宇宙ミッション実現のためにはハイブリッドスラスタのTRLの向上が求められていました。そのような状況の中、株式会社ElevationSpaceと共に、世界初のハイブリッドスラスタの宇宙実証を目指す共同研究が始まり、この試験において実機レベルでの性能確認が行われました。 TRLの向上は実用化に近づけるだけでなく、私自身にとっても新しい発見が多くあります。本共同研究ではすでに、複数の査読付き論文(出版1本、準備中2本)、国際学会発表(1件発表済、1件査読中)、特許(出願済み2件、準備中多数)など、多くの研究成果を生み出しています。これからも、この共同研究を通じて、研究と実用化の両軸を回しながら宇宙開発に貢献していきます。」 ※1 2024年2月 株式会社ElevationSpace調べ プレスリリース: 東北大学 https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2024/03/press20240326-01-Satellite.html 株式会社ElevationSpace https://elevation-space.com/posts/news_20240326
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お知らせ2024.03.22
新領域創成研究部の千葉杏子助教と先端学際基幹研究部の丹羽伸介准教授らの論文が、日本分子生物学会の国際学術誌『Genes to Cells』において、出版後12ヶ月の間に最もダウンロードされた論文の一つとして、出版元のWiley社から「Top Downloaded Article 」に認定されました。 該当論文は次の通りです。 Juri Nakano, Kyoko Chiba, Shinsuke Niwa "An ALS-associated KIF5A mutant forms oligomers and aggregates and induces neuronal toxicity" Genes to Cells DOI: 10.1111/gtc.12936 https://doi.org/10.1111/gtc.12936
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会議発表・論文・出版2024.03.18
資源として豊富なマグネシウム(Mg)を用いるマグネシウム蓄電池(Rechargeable Magnesium Battery: RMB)は、安価で安全・高容量な次々世代蓄電池として期待されています。RMBの実現には、Mgを円滑に挿入・脱離できる正極材料が必要ですが、Mgは固体中を移動しにくいことが高性能な正極材料の開発を阻んでいました。例えば、これまでに提案されてきたスピネル型構造の正極材料では、Mgの移動を促進するために150℃まで加熱する必要がありました。またMgを挿入することで、スピネル型構造からMgの移動がより困難な岩塩型構造に変化し、実質的に利用可能な容量が目減りした結果、電極が劣化することが問題でした。 東北大学金属材料研究所の河口智也助教と市坪哲教授、学際科学フロンティア研究所の下川航平助教らは、Mg以外に6種類の金属元素を混合することで、Mgの移動を促す空間を安定かつ大量に含む岩塩型構造の新たな正極材料を開発しました。岩塩型構造はMgの挿入・脱離が困難とされていましたが、90℃とこれまでよりも低い温度で挿入・脱離が実現できることを実証しました。広範囲にわたり容易に入手可能なMgを用いた蓄電池が実現すれば、資源を巡る国際的競争の緩和など、持続可能な社会の実現への貢献が期待されます。 本成果は2024年3月15日10:00(英国時間)に、エネルギーに関する専門誌『Journal of Materials Chemistry A』にオンラインで公開されました。 図:マグネシウム蓄電池の概念図。リチウムイオン電池と同様に、Mgが正極と負極間を電解液を介して移動することで、蓄電池として作動する。従来型のリチウムイオン電池と大きく異なるのは、リチウムイオン電池では黒鉛が使用されていた負極材料に、容量が大きいマグネシウム金属を用いる点である。 論文情報: タイトル:Securing cation vacancies to enable reversible Mg insertion/extraction in rocksalt oxides 著者: Tomoya Kawaguchi,* Masaya Yasuda, Natsumi Nemoto, Kohei Shimokawa, Hongyi Li, Norihiko L. Okamoto, and Tetsu Ichitsubo* *責任著者:東北大学金属材料研究所 助教 河口智也、教授 市坪哲 掲載誌:Journal of Materials Chemistry A DOI:10.1039/D3TA07942B URL:https://pubs.rsc.org/doi/D3TA07942B プレスリリース: 東北大学 https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2024/03/press20240318-01-mg.html 金属材料研究所 https://www.imr.tohoku.ac.jp/ja/news/results/detail---id-1593.html
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お知らせ2024.03.12
東北大学学際科学フロンティア研究所(学際研)は、1995年に発足した「学際科学研究センター」を前身として学際研究を推進した「学際科学国際高等研究センター」と、若手研究者育成という新たな使命を持った「先端融合シナジー研究所」とが統合して、2013年に設立されました。以降、先端的学際研究の推進、若手研究者の育成「学際尚志プログラム」、学内学際研究の発掘をミッションとして活動し、設立から10周年を迎えました。これを記念して、「学際科学フロンティア研究所設立10周年記念式典・講演会」が、2024年2月19日(月)に東北大学片平さくらホールで開催されました。学際研をさまざまな形でご支援くださった関係者のみなさま、学際研在籍教職員や出身者など、およそ120名の方々にご出席いただきました。 記念式典では、冒頭で東北大学の大野英男総長が開会挨拶を述べ、「数多くの研究者を育ててきた学際研は、本学の若手研究者活躍の取り組みのベース」と、東北大学における学際研の位置付けに触れつつ、各方面からの多大なるご支援に感謝の意を表しました。続いて、文部科学省科学技術・学術政策局の柿田恭良局長よりご祝辞を賜ったのち、学際研の早瀬敏幸所長が学際研の歴史を概観し、また将来展望を述べました。 記念講演会では、国立情報学研究所の安浦寛人副所長から「世界で活躍する若手研究者への支援と学術情報基盤の変革」という演題で、日本における若手研究者育成支援の取り組みが紹介され、「データ駆動型研究やオープンサイエンスという新しい潮流の中でも、東北大学と学際研はアカデミアにおいて最先端の組織であり続けてほしい」という期待の言葉で講演が締めくくられました。 さらに、学際研の増本博教授と當真賢二教授からそれぞれ「学際研における先端的学際研究とナノ複相材料の将来」、「学際研での異分野交流と宇宙物理学研究、そしてそれらの未来」という演題で、また学際研出身で現在広島大学の有松唯准教授から「学際研での人文学-出身者として思うことと西アジア考古学からの展望-」という演題で、現在籍者と出身者の視点から、学際研の特徴的な活動や役割、そしてさまざまな思い出が語られました。 学際研から巣立ち、現在は学内外で活躍する研究者がおよそ30名が集まったことは、この日の特筆すべき出来事でした。出身者がそれぞれの分野で活躍する様子は、学際研が担ってきた役割とそのインパクトを如実に示しています。記念講演会に引き続いて行われたポスターセッションでは、学際研教員と出身者により60件以上の発表があり、活発な研究交流が行われました。その後の意見交換会でも歓談の輪が広がり、学際研の歩みを振り返り、将来への希望を語り合うことで、学際研の「10歳」を祝いました。 写真:学際科学フロンティア研究所設立10周年記念式典の様子。
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受賞2024.03.12
東北大学学際科学フロンティア研究所の齋藤勇士助教が、公益財団法人宇宙科学振興会による『2023年度第16回宇宙科学奨励賞』を受賞しました。この賞は、宇宙科学(宇宙理学および宇宙工学を含む)分野で顕著な研究業績を上げ、将来の宇宙科学の発展に大きく貢献することが期待される若手研究者を表彰するために2008年度に創設されました。宇宙理学および宇宙工学の分野の学識経験者で構成される選考委員会による審査の結果、齋藤助教が本年度の宇宙科学奨励賞(宇宙工学分野)を受賞しました。 東北大学 学際科学フロンティア研究所 助教 齋藤 勇士(さいとう ゆうじ) 業績の題目:端面燃焼式ハイブリッドロケットの燃焼特性および推力制御特性の解明 2024年3月7日に開催された表彰式での集合写真。前列右が齋藤勇士助教。 公益財団法人宇宙科学振興会: http://www.spss.or.jp/support/award_2023.html プレスリリース: 東北大学 https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2024/03/news20240312-fris.html
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研究会等のお知らせ2024.03.05
ハイブリッド開催 / Hybrid Event FRIS Hub Meetingは、FRISの研究者全員が参加する研究発表セミナーで、月に一度、8月を除く毎月第4木曜日に開催しています。Hub Meetingの趣旨は、発表者が全領域の研究者を対象として、研究のイントロと分かりやすい専門的内容の紹介を行い、新テーマ創成の芽を作ることです。2021年1月からは世界で活躍できる研究者戦略育成事業「学際融合グローバル研究者育成東北イニシアティブ(TI-FRIS)」のTI-FRIS Hub Meetingと合同で開催しています。 Hub Meetingでは英語での発表を強く推奨しています。異分野研究者同士では共通の常識や考え方は望めません。参加者は発表中にどんどん質問し、討論し、理解を深めるようにしています。Hub Meeting参加対象(下記)の方は積極的にご参加ください。 【TI-FRISは、弘前大学、岩手大学、東北大学、秋田大学、山形大学、福島大学、宮城教育大学によるコンソーシアム事業です。】 第52回 FRIS Hub Meeting(TI-FRIS Hub Meetingとの合同開催) 日時:2024年3月28日(木)11:00-12:00 開催方式:ハイブリッド開催(オンライン/Zoom・学際科学フロンティア研究所セミナー室) Language: English 参加ご希望の方は、事前登録が必要になります。 参加申し込みフォームよりご登録ください。 登録締切:3月27日(水)15:00 発表者: Sai Sun 助教 (東北大学学際科学フロンティア研究所/情報・システム/TI-FRISフェロー) 発表タイトル: Neurotranslational research for empowering the mind/brain: circuit- and frequency-specific mechanisms for precise neuromodulation Summary : Research on the neural basis of low- and high-order cognition has become a significant area due to advancements in neuroscience techniques, computational tools, and its clinical relevance. This is particularly important given the rising prevalence of neurodegenerative, neuropsychiatric, and neurodevelopmental disorders, such as Alzheimer's, schizophrenia, depression, and more. The goal of my research is to develop evidence-based treatment strategies to empower the mind/brain using innovative neuromodulation approaches. In this hub meeting, I will introduce the concepts of non-invasive and minimally invasive neuromodulation protocols tailored to specific circuits and frequencies to enhance social-cognitive functioning. By investigating the nuanced information transmission pathways and the natural frequency of individual brains, I will show how this knowledge can optimize treatment efficiency and guide precise neuro-translational research. Hub Meeting参加者 趣旨と守秘義務を理解・了解していることを条件に、以下の方が参加できます。 Hub Meetingメンバー 発表のターゲットとする参加者、アーカイブ視聴対象 ・東北大学学際科学フロンティア研究所教員 ・TI-FRISフェロー オブザーバー Hub Meetingに興味のある下記の参加者(質問・議論にも参加することができます) ・東北大学学際高等研究教育院研究教育院生 ・東北大学教職員・学生 ・TI-FRIS参画大学教職員・学生 ・TI-FRIS関係者(委員会委員等) ・「世界で活躍できる研究者戦略育成事業」の育成対象者 ・科学記者 ・学際研所長/TI-FRISプログラムマネージャーが認めたもの ◆FRIS Hub Meetingについて
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会議発表・論文・出版2024.03.04
近年社会におけるAI技術を用いた情報処理の需要は急速に増加しています。現在は、ニューラルネットワークによる情報処理の計算を、電子計算機上で膨大な数のCPU(中央演算処理装置)やGPU(画像処理装置)を用いることによって行っているため、高い消費電力が問題となっています。一方、人間は低消費電力で情報処理を行っていることから、リザバー計算や量子計算技術など、従来とは異なる概念に基づいた科学技術による情報処理の研究が世界各国で進んでいます。 東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)兼産業技術総合研究所 産総研・東北大 数理先端材料モデリングオープンイノベーションラボラトリ 副ラボ長の義永那津人准教授は、同大学学際科学フロンティア研究所の飯浜賢志助教、WPI-AIMR兼同大学先端スピントロニクス研究開発センターの水上成美教授、同大学大学院工学研究科の小池雄也大学院生(研究当時)とともに、強磁性体薄膜中のスピン波を用いて従来のリザバー計算機よりも低消費電力で高い学習性能が期待される物理リザバー計算を実行できる装置を実現するための機構を解明しました。 スピン波を情報の担体とするAIハードウェアの研究が世界的に進展しており、ナノメートル、ギガヘルツかつ高エネルギー効率で高い学習性能を実現することは重要な課題の一つです。本研究グループでは、金属ナノ薄膜の強磁性体中を伝わるスピン波を研究しました。時系列データに比例した大きさで磁性体の入力ノードの位置を励起することでスピン波を発生させ、伝播したスピン波を出力ノードの位置で読み出すことで、短期記憶と非線形変換能力を持った学習やカオス時系列(注6)の予測が可能であることを示しました。また、数理的な解析によって学習性能を最適にするスピン波の速度と素子のサイズとの関係を明らかにしました。本結果は、磁気ナノテクノロジーを用いた低消費電力な情報処理素子の開発に新しい視点を与えるものです。 本研究は2024年3月1日(英国時間)に、スピントロニクス分野の専門誌『npj Spintronics』の電子版に掲載されました。 図:磁性体薄膜のスピンの波を利用したAIハードウェア応用、物理リザバー計算の模式図。時系列の情報処理を行うことができるデバイスで、入力時系列を出力時系列に変換することによって、入力時系列の将来のデータを予測したり、過去のデータを記憶して読み出したりすることができる。入力時系列は、物理リザバー内の物理ノード(上図の黄色点、下図の青の円筒)のダイナミックスを励起し、その時間変化を読み出すことで出力時系列を得る。スピン波によりリザバー計算では、入力時系列に比例した電流を物理ノードに流すことによってスピン波を励起させる。このスピン波の伝播を利用して学習を行う。スピン波を使うことでナノスケールの高性能リザバー計算機を実現できる。 論文情報: タイトル:Universal scaling between wave speed and size enables nanoscale high-performance reservoir computing based on propagating spin-waves 著者:S. Iihama, Y. Koike, S. Mizukami, and N. Yoshinaga *責任著者:東北大学材料科学高等研究所 准教授 義永那津人 掲載誌:npj Spintronics DOI:10.1038/s44306-024-00008-5 URL: https://doi.org/10.1038/s44306-024-00008-5 プレスリリース: 東北大学 http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2024/03/press20240304-02-spin.html 材料科学高等研究所 https://www.wpi-aimr.tohoku.ac.jp/jp/achievements/press/2024/20240304_001762.html
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会議発表・論文・出版2024.03.01
タンパク質に人工的な機能を導入するバイオコンジュゲーション技術は近年、目覚ましい成長を遂げている。バイオコンジュゲーション技術の核となるのは、目的のタンパク質と標識試薬の間に共有結合を形成する化学反応である。これまでの研究では、タンパク質の立体構造を損なわないようにバッファーなどの水系溶媒中で進行する化学反応を利用してきた。このようなアプローチでは、リジン残基、システイン残基のような反応性の高いアミノ酸残基を修飾することは比較的容易であるが、トリプトファン残基のような一般に反応性の低いアミノ酸残基の修飾は困難な課題であった。 反応性の低いアミノ酸残基を修飾するために使用される高反応性化学種は、水系溶媒においては、水分子の反応性が高いため、クエンチされてしまい、適用可能な有機化学反応の範囲が著しく制限されている。一方で、これまで、バイオコンジュゲーション反応とタンパク質の安定化の両方を促進する代替反応溶媒を発見する努力はほとんどなされていない。 ノースカロライナ州立大学の大畠潤助教授、Zibo Li教授、Elon A. Ison教授、東北大学学際科学フロンティア研究所の佐藤伸一助教らの研究チームは、タンパク質のαヘリックスを安定化するヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)、イオン液体といった非水系溶媒での新規バイオコンジュゲーション技術を追求した。ルイス酸を触媒とするカチオン種の発生条件によって、迅速かつ、トリプトファン残基選択的なバイオコンジュゲーション法を開発することに成功した。 非水系溶媒でのバイオコンジュゲーション技術は従来のプロセスでは利用できなかった多くの化学反応の活用を可能にし、タンパク質化学をさらに進歩させることが期待できる。 これらの研究成果はアメリカ化学会発行の総合化学誌『Journal of the American Chemical Society』誌に2024年2月29日付で掲載されました。 論文情報: タイトル:Hexafluoroisopropanol as a Bioconjugation Medium of Ultrafast Tryptophan-Selective Catalysis 著者:Mohammad Nuruzzaman, Brandon M. Colella, Chiamaka P. Uzoewulu, Alissa E. Meo, Elizabeth J. Gross, Seiya Ishizawa, Sravani Sana, He Zhang, Meredith E. Hoff, Bryce T. W. Medlock, Emily C. Joyner, Shinichi Sato, Elon A. Ison, Zibo Li, and Jun Ohata DOI: 10.1021/jacs.3c13447 URL: https://doi.org/10.1021/jacs.3c13447
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研究会等のお知らせ2024.02.08
ハイブリッド開催 / Hybrid Event FRIS Hub Meetingは、FRISの研究者全員が参加する研究発表セミナーで、月に一度、8月を除く毎月第4木曜日に開催しています。Hub Meetingの趣旨は、発表者が全領域の研究者を対象として、研究のイントロと分かりやすい専門的内容の紹介を行い、新テーマ創成の芽を作ることです。2021年1月からは世界で活躍できる研究者戦略育成事業「学際融合グローバル研究者育成東北イニシアティブ(TI-FRIS)」のTI-FRIS Hub Meetingと合同で開催しています。 Hub Meetingでは英語での発表を強く推奨しています。異分野研究者同士では共通の常識や考え方は望めません。参加者は発表中にどんどん質問し、討論し、理解を深めるようにしています。Hub Meeting参加対象(下記)の方は積極的にご参加ください。 【TI-FRISは、弘前大学、岩手大学、東北大学、秋田大学、山形大学、福島大学、宮城教育大学によるコンソーシアム事業です。】 第51回 FRIS Hub Meeting(TI-FRIS Hub Meetingとの合同開催) 日時:2024年2月22日(木)11:00-12:00 開催方式:ハイブリッド開催(オンライン/Zoom・学際科学フロンティア研究所セミナー室) Language: English 参加ご希望の方は、事前登録が必要になります。 参加申し込みフォームよりご登録ください。 登録締切:2月21日(水)15:00 発表者: 山田將樹 助教 (東北大学学際科学フロンティア研究所/先端基礎科学) 発表タイトル: 熱い宇宙のはじまり/Unveiling the Beginning of Our Hot Universe Summary : The Universe has gone through some interesting phases that can be unveiled through the fundamental laws of physics. As we look back in time, things got hotter, leading to the formation of light elements. Before that, there was a period called inflation, when the Universe rapidly expanded. In this talk, we will explore how the Universe changed from the inflation era to a hot period, using the Standard Model of particle physics. Hub Meeting参加者 趣旨と守秘義務を理解・了解していることを条件に、以下の方が参加できます。 Hub Meetingメンバー 発表のターゲットとする参加者、アーカイブ視聴対象 ・東北大学学際科学フロンティア研究所教員 ・TI-FRISフェロー オブザーバー Hub Meetingに興味のある下記の参加者(質問・議論にも参加することができます) ・東北大学学際高等研究教育院研究教育院生 ・東北大学教職員・学生 ・TI-FRIS参画大学教職員・学生 ・TI-FRIS関係者(委員会委員等) ・「世界で活躍できる研究者戦略育成事業」の育成対象者 ・科学記者 ・学際研所長/TI-FRISプログラムマネージャーが認めたもの ◆FRIS Hub Meetingについて