東北大学
学際科学フロンティア研究所

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惑星の形成環境における宇宙線量:原始惑星系円盤の観測と整合する新たな理論モデル

2022年9月30日『The Astrophysical Journal Letters』誌に論文掲載

2022.10.05

私たちの住む地球を含む惑星は、誕生後間もない恒星(原始星)の周囲に形成されるガスとちりでできた円盤(原始惑星系円盤)の中で作られます。原始惑星系円盤の力学的進化や化学組成は、その電離状態に大きく依存することが知られています。宇宙を満たしている高エネルギーの荷電粒子(宇宙線)は原始惑星系円盤の主要な電離源と考えられてきました。しかし、過去の理論モデルでは宇宙線の原始惑星系円盤への侵入を単純化しすぎており、近年見積もられている星間空間での宇宙線量を使用すると、電波観測から得られる原始惑星系円盤の化学組成と整合しないものとなっていました。
 
京都大学の藤井悠里助教と東北大学学際科学フロンティア研究所の木村成生助教は、星間空間を漂う宇宙線が原始惑星系円盤に侵入する際に現れる磁場構造に起因する諸現象を考慮に入れた上で、原始惑星系円盤周囲における宇宙線量の空間分布を見積もる理論モデルを構築しました。この理論モデルでは、原始惑星系円盤の内縁部では従来の理論モデルよりも低い電離率となる一方、外縁部では星間空間の宇宙線量で決まる電離率と同程度の電離率になります。
 
最新の星間空間での宇宙線量を用いて今回の新たな理論モデルを適用すると、近年の電波観測から得られている化学組成を説明できることがわかりました。さらに、この理論モデルが予言する電離率分布は、原始惑星系円盤の乱流強度の観測的な見積もりとも整合的です。今後、さらなる観測の進展や数値シミュレーションの発展により、原始惑星系円盤における宇宙線の役割が理解され、惑星の形成過程の解明に繋がると期待されています。


研究チームが新たに構築した、原始惑星系円盤周囲の宇宙線量の空間分布を見積もる理論モデルの模式図。(クレジット:Fujii & Kimura)

この研究成果は米国天文学会発行の天体物理学専門誌『The Astrophysical Journal Letters』誌に2022年9月30日付けで掲載されました。

論文情報:
Yuri I. Fujii(京都大学)& Shigeo S. Kimura(東北大学)
The Astrophysical Journal Letters, 2022, 937 L37
"Cosmic-Ray Ionization Rate in Protoplanetary Disks with Sheared Magnetic Fields"
DOI: 10.3847/2041-8213/ac86c2
https://doi.org/10.3847/2041-8213/ac86c2
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