東北大学
学際科学フロンティア研究所

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物質である高分子がどのようにして自己複製できるようになったのか? その問いに答える物理モデルを構築

2023年5月11日『Physical Review E』誌に掲載

2023.05.19

 
遺伝情報を記録するDNAが自己複製する機能は生命体が持つユニークな特性であり、物質だけの世界にはこれほど複雑な自己複製機能はありません。原始の地球上において、物質世界からどのようにして自己複製する生体高分子が生まれたのかという問いは、生命の起源に関する最重要問題のひとつですが、未だ実験的にも理論的にも解き明かされたとはいえません。よく知られているM. Eigen のハイパーサイクルモデルやS. A. Kauffman らのオートカタリティックモデルは、物質世界の高分子から自己複製する高分子への臨界的遷移を扱っていませんでした。
 
東北大学学際高等研究教育院の沢田康次名誉教授、公益財団法人がん研究会がん研究所の大学保一プロジェクトリーダー(研究開始当時:東北大学学際科学フロンティア研究所 助教)、東北大学学際科学フロンティア研究所の當真賢二准教授は、DNAが自己複製しながら遺伝子情報を運ぶ世界の以前にRNAを自己複製の単位とする世界があった可能性が高いことに注目し、ランダムなポリヌクレオチド分子集合体の物質世界からRNAのような配列分子が自己複製する世界への遷移を示す物理モデルを構築しました。その上で種々の可能なネットワークに対して解析と数値シミュレーションを行い、分子の反応定数や崩壊係数がどのような条件であれば遷移が起こるかを導き出しました。
 
本研究は、非線形物理学の研究者、分子遺伝学の研究者、宇宙物理学の研究者による学際的な成果となりました。本研究で構築した物理モデルは非平衡な熱力学状態で実現する散逸構造の一つとなっており、生命の起源と熱力学の関係を紐解く端緒となる可能性を示しています。本研究で導いた条件が原始地球上における物理状態と合致するのかについては、今後の実験的研究による検証が期待されます。

この研究成果は米国物理学会発行の学術雑誌『Physical Review E』誌に2023年5月11日付で掲載されました。また本研究の議論では、学際科学フロンティア研究所の分野横断型研究環境FRIS CoREのサイエンスラウンジが活用されました。

論文情報
タイトル:Onset model of mutually catalytic self-replicative systems formed by an assembly of polynucleotides
著者:Yasuji Sawada, Yasukazu Daigaku, and Kenji Toma
掲載誌:Physical Review E
DOI: 10.1103/PhysRevE.107.054404
URL: https://doi.org/10.1103/PhysRevE.107.054404
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