東北大学
学際科学フロンティア研究所

トピックス

ムール貝の接着分子に着想を得た柔軟な細胞足場基板

2023年6月7日『Polymer Journal』誌に論文掲載

2023.06.09

近年、けが等で体の一部が動かなかったり失ったりした時に、自然治癒力を利用して生体組織を再生・修復する再生医療技術が注目されています。細胞足場材料は、周囲の微小環境と細胞の相互作用を高めることで、組織再生のプラットフォームとして、細胞の成長や機能的な組織形成を促します。細胞足場材料の研究の多くは、固体基材の硬度やパターンの付与を操作することに重点が置かれていますが、人体では、細胞は流体状の足場も接着基材として利用しており、多様な生体環境の再構築が必要とされてきました。一方、流体表面への細胞の接着は、油と細胞の相互作用が乏しく困難でした。
 
東北大学学際科学フロンティア研究所の阿部博弥助教(大学院工学研究科兼任)、伊奈朋弥氏(工学部建築・社会環境工学科3年)、大学院工学研究科の西澤松彦教授、東京医科歯科大学の梶弘和教授は、ムール貝の接着性分子として知られるドーパミンを油と水の界面に接着させ、その重合体であるポリドーパミンの薄膜をその界面に形成させることで、油と細胞の親和性を高めることに成功しました。さらに、油の体積変化に伴って水と界面の見かけ上の表面積を変化させることで、油と水の界面上に高分子薄膜の"シワ"を形成させることを見出しました。このシワ上で細胞を播種した結果、細胞がシワに沿って並んでいることも確認されました。本研究成果は、組織工学や再生医療における細胞の成長や分化等への柔軟性と周期的なパターンの関係性を明らかにする新しい足場材料として期待されます。
 
この研究成果は高分子学会発行の専門誌『Polymer Journal』誌に2023年6月7日付で掲載されました。

なお、論文著者の伊奈氏は東北大学アドミニストレイティブ・アシスタントの制度をきっかけとして、研究チームに加わりました。学際科学フロンティア研究所では、所属教員の研究の進展を図るとともに、このような学生に最先端の研究を経験する機会を提供し、学生の多様な研究経験と経済支援に資する事を目的とした取り組みである「学部学生研究ワーク体験(FRIS-URO)」 を開始しております。
 
また、本成果は学際研内の日常的な異分野交流を可能とする協働的研究環境を目指したFRIS CoREを利用した研究成果です。

 
図:ムール貝から着想を得た高分子薄膜を培養液(medium)と油の界面に形成させることで細胞の接着に成功。さらに、“シワ”を導入することで界面上に規則的なパターンの導入を可能にした。

論文情報:
タイトル:Mussel-inspired interfacial ultrathin films for cellular adhesion on the wrinkled surfaces of hydrophobic fluids
著者:Hiroya Abe, Tomoya Ina, Hirokazu Kaji, Matsuhiko Nishizawa
掲載誌:Polymer Journal
DOI: 10.1038/s41428-023-00799-0
URL: https://doi.org/10.1038/s41428-023-00799-0
https://rdcu.be/ddVFT

学際科学フロンティア研究所「学部学生研究ワーク体験(FRIS-URO)」:
https://www.fris.tohoku.ac.jp/recruit/fris-uro/
 
 
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