東北大学
学際科学フロンティア研究所

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衝突するブラックホールからの新たな電磁波放射モデルを構築:連星ブラックホールの形成機構を調べる新たな手段を提供

2023年3月21日『The Astrophysical Journal Letters』誌および6月6日『The Astrophysical Journal』誌に論文掲載

2023.06.15

恒星程度の質量をもつ2つのブラックホールで構成される連星ブラックホールの存在が近年の重力波の観測から明らかになりましたが、その起源はわかっていません。これまでの恒星進化理論からは形成されないと思われていた太陽の50倍から100倍程度の質量をもつブラックホール同士が衝突するという事象も観測されています。そのような連星ブラックホールの形成場所として、活動銀河核と呼ばれる銀河の中心部でのブラックホール合体現象が提案されています。活動銀河核には降着円盤と呼ばれる濃いガス円盤が存在すると考えられています。ブラックホールがそのガス円盤に閉じ込められると、頻繁にブラックホール同士が合体して質量を増やすため、恒星進化理論で予言されるものよりも重い連星ブラックホールを形成することが可能になります。しかし、このシナリオを電磁波観測で検証する方法は知られていませんでした。
 
コロンビア大学(当時)の田川博士、東北大学学際科学フロンティア研究所の木村助教を含む国際研究チームは、活動銀河核の降着円盤内部にブラックホールが存在する時に放射される電磁波信号を理論的に計算し、どのような電磁波観測を通じてシナリオを検証できるか検討しました。このシナリオでは、ブラックホールから射出されるジェットが降着円盤と相互作用して衝撃波を形成します。この衝撃波が円盤の表面に達した時に生じる多波長放射を計算し、活動銀河核における特異な増光現象として検出できることを見出しました。この特異な増光現象を見つけるには、X線帯域での広視野探索が有用です。
 
また、このシナリオでは一部のブラックホール合体事象に電磁波が付随することが予言されます。連星ブラックホールが合体するとブラックホールのスピンの向きが合体前後で変わるため、合体後に射出されたジェットが再び活動銀河核の円盤と相互作用して衝撃波を形成すると考えられます。その衝撃波が円盤表面に達すると様々な波長で観測可能な電磁波を放射します。このシナリオでは、過去に報告されている連星ブラックホール合体事象と電磁波の対応天体候補を説明する事が可能です。将来の連星ブラックホール事象に対する電磁波追観測によりシナリオの検証が期待されます。
 
 
これらの研究成果は米国天文学会発行の天体物理学専門誌『The Astrophysical Journal Letters』誌に2023年3月21日付で、『The Astrophysical Journal』誌に6月6日付でそれぞれ掲載されました。
 


図:電磁波放射モデルの概念図。降着円盤に埋もれたブラックホールからジェットが射出され、降着円盤と相互作用しつつジェットが円盤から抜け出る瞬間に明るい電磁波が様々な波長帯で放射される。
 
 
論文情報:
タイトル:“Observable Signatures of Stellar-mass Black Holes in Active Galactic Nuclei”
著者:Hiromichi Tagawa (Columbia University), Shigeo S. Kimura (Tohoku University), Zoltan Haiman (Columbia University), Rosalba Perna (New York University), Imre Bartos (Florida University)
掲載誌:The Astrophysical Journal Letters
DOI:10.3847/2041-8213/acc103
URL: https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/acc103
 
タイトル:“Observable signature of merging stellar-mass black holes in active galactic nuclei”
著者:Hiromichi Tagawa (Columbia University), Shigeo S. Kimura (Tohoku University), Zoltan Haiman (Columbia University), Rosalba Perna (New York University), Imre Bartos (Florida University)
掲載誌:The Astrophysical Journal
DOI:10.3847/1538-4357/acc4bb
URL: https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/acc4bb
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