東北大学
学際科学フロンティア研究所

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最小量でタンパク質の立体構造形成を促進する化合物を開発 ―― バイオ医薬品の合成効率向上や ミスフォールディング病予防・治療薬の開発に光

2023年6月30日『Chemical Science』誌(オンライン版)に論文掲載およびプレスリリース

2023.07.03

東京農工大学大学院工学府の岡田隼輔(博士後期課程修了)、松本陽佑(博士前期課程修了)、大学院工学研究院の村岡貴博教授、東北大学学際科学フロンティア研究所の奥村正樹准教授、東海大学理学部の高橋莉奏(博士前期課程学生)、荒井堅太講師、関西学院大学理学部の金村進吾助教の研究グループは、変性状態のタンパク質に対して、1当量添加でフォールディングを効率的に進める合成化合物pMePySSの開発に成功しました。ピリジニウム基とチオール/ジスルフィド基の1連結構造が、ジスルフィド結合形成を伴う酸化的タンパク質フォールディングを促進する効果的な分子構造であることを見出しました。
 
アミノ酸が連結して作られるポリペプチドは、天然構造と呼ばれる特定の三次元構造を形成して、タンパク質としての機能を獲得します。この天然構造を形成する過程をポリペプチド鎖の折りたたみ、フォールディング、と呼びます。タンパク質は、インスリンや抗体医薬などバイオ医薬品としても広く利用され、その社会的重要性は近年急速に高まっています。フォールディングを効率よく進める材料や技術開発は、タンパク質製剤の生産効率の向上に直結する重要な課題です。
 
医薬品として用いられるものも含め、タンパク質の多くは、システイン残基間でのジスルフィド結合形成を伴いながらフォールディングを行います。ジスルフィド結合形成は酸化反応であるため、その形成を伴うフォールディングは酸化的タンパク質フォールディングと呼ばれます。酸化的タンパク質フォールディングを促進する人工化合物として、チオール/ジスルフィド構造を中心にこれまでも開発が行われてきました。しかし、従来のチオール/ジスルフィド化合物は、いずれもタンパク質に対して過剰に添加し、フォールディング促進が行われてきました。過剰量添加を要する点で、従来の化合物の効率は十分に高いものと言えない現状にありました。
 
本研究では、生体内で広く見られるメチル化反応に注目し、チオール/ジスルフィド化合物に対するメチル化による酸化的タンパク質フォールディングの促進効率向上を検討しました。その中で開発した化合物pMePySSが、還元変性タンパク質(ウシ膵臓トリプシンインヒビター、BPTI)に対して、ジスルフィド結合当り1当量添加で最大74%の収率で天然構造体を与えました。これは、従来の人工フォールディング促進化合物を過剰量用いた場合と比べても同等の収率であり、pMePySSが従来化合物と比べて、添加量基準で10倍以上高い効率でフォールディングを進めることが示されました。pMePySSは、インスリンのフォールディングに対しても1当量添加で促進効果を示しました。酸化型グルタチオンGSSGを用いる従来法と比べて、pMePySSは、4.2倍高い効率でインスリン天然構造体の形成を進めました。
 
この成果は、構造異常タンパク質が引き起こすパーキンソン病やアルツハイマー病、2型糖尿病などのミスフォールディング病に対する治療薬の開発や、インスリンや抗体医薬などのタンパク質製剤の合成効率の向上に貢献すると期待されます。

本研究成果は、本研究成果は2023年6月30日(金)、英国化学会誌『Chemical Science』のオンライン版で公開されました。
 

図:酸化的タンパク質フォールディングの概要と本研究で開発したpMePySS。左に示す還元変性タンパク質は、システイン残基の側鎖がチオール基(SH)の状態にあり、分子全体として構造がほどけている。還元変性タンパク質に対してpMePySSが反応することでフォールディングが進行し、右に示す天然構造タンパク質が作られる。天然構造タンパク質は、システイン残基の側鎖がジスルフィド結合(SS)を形成し、分子全体が折り畳まれた状態にある。

論文情報:
タイトル:Semi-enzymatic acceleration of oxidative protein folding by N-methylated heteroaromatic thiols
著者:Shunsuke Okada, Yosuke Matsumoto, Rikana Takahashi, Kenta Arai, Shingo Kanemura, Masaki Okumura and Takahiro Muraoka (*責任著者 村岡貴博、奥村正樹)
掲載誌:Chemical Science
DOI: 10.1039/D3SC01540H
URL: https://doi.org/10.1039/D3SC01540H
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