東北大学
学際科学フロンティア研究所

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栄養環境に応答した脱分化現象の同定 ―絶食後の再摂食は腸管内分泌細胞を幹細胞へとリプログラミングする―

2023年9月9日『Developmental Cell』誌(オンライン版)に論文掲載およびプレスリリース

2023.09.11

東京大学大学院薬学系研究科の長井広樹博士研究員(研究開始当時 東北大学学際科学フロンティア研究所研究員)、三浦正幸教授、中嶋悠一朗講師(研究開始当時 東北大学学際科学フロンティア研究所助教)らによる研究グループは、同大学定量生命科学研究所、北海道大学、東北大学、大阪大学と共同で、栄養環境に応じた腸管サイズ増大において、分化した腸管内分泌細胞が腸管幹細胞へと脱分化を起こすことを明らかにしました。これまで、脱分化は、組織損傷によって幹細胞が失われた際や、組織がん化の際に起こることが知られていましたが、生理的な条件下で脱分化が起こりうるかは不明でした。本研究グループは、ショウジョウバエ成虫の腸管において、蛹から羽化した直後の食餌摂取、あるいは絶食後の再摂食時に腸管幹細胞が増加することに着目し、このとき腸管内分泌細胞が栄養摂取に応答して脱分化を起こしていることを見出しました。また、脱分化由来の幹細胞を腸管から除去する実験系を構築し、脱分化が栄養摂取に応じた幹細胞数の増加と、それに続く腸管サイズの増大に必須であることを示しました。さらに、この栄養依存的な脱分化現象を誘導するメカニズムとして、食餌中のグルコースとアミノ酸量に反応してJAK-STATシグナルが腸管内分泌細胞で活性化することの重要性を解き明かしました。
 
食事摂取量に対する腸管サイズの適応反応は多様な生物種で観察されており、JAK-STATシグナルは哺乳類において損傷再生時の脱分化誘導を担っています。こうした知見から、本研究で発見した栄養依存的な脱分化現象は、ショウジョウバエのみならず、哺乳類を含む進化的に保存された機構であることが期待されます。また、細胞運命の可塑性は、腫瘍化や化生といった病態とも関連があり、本研究成果が栄養環境と疾患を結ぶ手がかりとなる可能性があります。
 


図:栄養環境の変動に応じた腸管内分泌細胞の脱分化モデル図

論文情報:
タイトル:Nutrient-driven dedifferentiation of enteroendocrine cells promotes adaptive intestinal growth in Drosophila
著者:Hiroki Nagai*, Luis Augusto Eijy Nagai, Sohei Tasaki, Ryuichiro Nakato, Daiki Umetsu, Erina Kuranaga, Masayuki Miura, and Yu-ichiro Nakajima*
掲載誌:Developmental Cell
DOI: 10.1016/j.devcel.2023.08.022
URL: https://cell.com/developmental-cell/fulltext/S1534-5807(23)00437-9
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