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“ヤヌス型”2次元物質の第2高調波増強を検証 ―ありふれた元素だけで短波長の高強度レーザー実現に道を拓く―
2023年8月29日『ACS Nano』誌(オンライン版)に論文掲載および9月22日プレスリリース
2023.09.22
今日の半導体露光装置や蛍光物質を使わない医療技術において、100 nm〜300 nmの波長の短いレーザー光源が求められています。波長の短いレーザー光源を得る一つの手法として、第2高調波発生(SHG)の方法があります。
東北大学学際科学フロンティア研究所のグエン タン フン(Nguyen Tuan Hung)助教と大学院理学研究科の齋藤理一郎名誉教授は、米国ライス大学とマサチューセッツ工科大学と共同で、ヤヌス型遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)と呼ばれる表面と裏面で別の原子層を持つ2次元物質が、波長400nmのSHGを発生することを第一原理計算で検証しました。さらに、このヤヌス型TMDをヘテロ積層し、SHGを3倍に増強することにも示しました。得られた波長は長いですが、手法を他の物質に応用することが可能です。
また研究チームは可能な積層構造を検討し、どのヘテロ構造が最もSHG強度を強くすることができるかを第一原理計算によって示し、数値計算の結果の一部は実験結果を定量的に再現しました。これは計算結果の信頼性を示すものです。さらに面内方向に20%も歪ませることによりSHG強度を最大にすることも示しました。今後、歪ヤヌス型TMDのSHGの実験的検証が期待されます。
本研究の成果は、2次元物質の自由な合成手法によってSHGを発生・増強する新たな物質群を創生する意義があります。
本研究成果は、米国化学会ACS Nano誌に 2023年8月29日付で掲載され、発表号の表紙に採用されました。

図:(左)ヘテロ積層の方法を変える(AB→AA積層)だけで、(中)第2高調波(SHG)の強度(非線形感受率χ(2))が3倍大きくなります。(右)この結果を受けて、三角形の試料のSHG強度を観測し、計算の予想を再現しました。
論文情報:
タイトル:Nonlinear Optical Responses of Janus MoSSe/MoS2 Heterobilayers Optimized by Stacking Order and Strain
著者: Nguyen Tuan Hung*, Kunyan Zhang, Vuong Van Thanh, Yunfan Guo, Alexander A. Puretzky, David B. Geohegan, Jing Kong, Shengxi Huang*, and Riichiro Saito*
*責任著者:東北大学学際科学フロンティア研究所 助教 Nguyen Tuan Hung
米国・ライス大学 准教授 Shengxi Huang
東北大学大学院理学研究科 名誉教授 齋藤理一郎
掲載誌:ACS Nano
DOI: https://doi.org/10.1021/acsnano.3c04436
URL: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsnano.3c04436