東北大学
学際科学フロンティア研究所

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化学–力学応答によりトポロジーが変化するDNAデバイス 分子刺激やイオン刺激に応じた形状変化を実現

2023年10月13日『Nature Communications』誌に論文掲載

2023.11.07

三重大学大学院工学研究科応用化学専攻 鈴木勇輝 准教授(研究開始当時 東北大学学際科学フロンティア研究所助教、2022年度 同研究所客員准教授)、東北大学大学院工学研究科 川又生吹 助教、米国ケント州立大学 Hanbin Mao 教授らの研究グループは、DNAオリガミ技術を用いることで、外部刺激に応答して形状と機械的特性が切り替わるDNAデバイスを開発しました。
 
今回開発したDNAデバイスは多数のナノスケールの変形モジュールから構成されており、それらの曲げ変形が累積されることで、線状からコイルスプリング状へと収縮します。各モジュールの曲げ変形を、二重らせん構造と四重鎖構造という異なるDNA構造の形成・解離によって制御することで、コイル形状のトポロジーやバネ定数の可逆的な切り替えを実現しました。本研究成果は、生体分子を素材としたものづくり技術の発展とその応用展開を加速するものとして期待されます。
 
研究成果は2023年10月13日に『Nature Communications』誌に掲載され、同誌のEditors’ Highlightsに選出されました。また11月7日に三重大学からプレスリリースされました。

【背景】
DNAは相補的な鎖同士が互いを認識し、会合することで、規則的な二重らせん構造を形成します。このような性質を工学的に応用すると、さまざまなナノ構造体や分子機械をDNA分子の自己集合によってつくりだすことができます。例えば、DNAオリガミ*1と呼ばれる技術では、長鎖一本鎖DNAを人工的に配列設計した多数の合成DNA鎖で折りたたみ、束ねていくことで、デザインした形状のナノ構造体を作製します。この手法を用いることで、これまでに、開閉運動、回転運動、スライド運動などの動きを示すさまざまなDNA分子機械がつくられてきました。しかし、より複雑で有機的な動作を実現するためには、曲げやねじれを伴った変形を可逆的に誘導し、制御するための方法論が望まれていました。
 
【研究内容】
研究グループが開発したDNAデバイスは、多数の微小な変形モジュールの繰り返しで構成されており、それらのねじれと曲げ変形が累積することで、線状からコイルスプリング状へと大きく形状が変化します(図1a)。今回、研究グループは、モジュールの曲げ変形の向きを二重らせん構造とグアニン四重鎖*2構造というDNA構造の変換によって切り替えることを考案しました。そのためにまず、各変形モジュール内の空隙を橋掛けするようなかたちで、グアニン四重鎖形成DNA鎖を導入しました(図1b)。このDNA鎖は、カリウムイオン(K)非存在下では、たるんでリラックスしていますが、K存在下ではコンパクトな四重鎖構造に折りたたまれるため、変形モジュールを「引っ張る」かたちで曲げ変形を誘導します。一方で、グアニン四重鎖形成配列に対して相補的なDNA鎖(アンチ鎖)が十分量存在すると、新たに二重らせん構造が形成され、それがモジュールを「押し広げる」ことで曲げ変形を誘導します。この二重らせん構造は、リリーサーDNAによって起こるDNA鎖置換反応*3を設計することで解離させることができるため、結果として、本DNAデバイスはKとDNA分子に対する二重の応答性を持つことになります。


図1:DNAデバイスと変形モジュールのモデル図
(a)全体形状のモデル図。 変形モジュール(赤色点線)の繰り返しで構成されている。各モジュールの曲げ変形が全体にわたって累積されることで形状が大きく変化する。(b) 変形モジュールのモデル図。各変形モジュール内の空隙にはグアニン四重鎖形成配列を含んだDNA鎖が橋掛けされている。K存在下ではグアニン四重鎖の形成に伴い、変形モジュールを「引っ張る」かたちで曲げ変形が誘導される。グアニン四重鎖形成配列に対して相補的なDNA鎖(アンチ鎖)を加えると、新たに二重らせん構造が形成され、それがモジュールを「押し広げる」ストレスを与える。各モジュールに結合したアンチ鎖はリリーサーの添加によって外すことができる。

K存在下、アンチ鎖存在下、それぞれにおいて、コイルスプリング構造を解析したところ、互いにコイル半径やピッチが異なるだけでなく、コイルの内側と外側が反転していることが明らかになりました(図2)。さらに、バネ定数についても、互いに異なることが分かりました。これらの結果から、変形の向きだけでなく、デバイスの機械的特性についても外部刺激の種類に応じて変更できることが示されました。
 
興味深いことに、コイルの巻き方については、ともに「右巻き」であることが示唆されました。これは、コイルスプリングのトポロジーが、変形モジュールの曲げ方だけでなく、右巻きのDNA二重らせんを束ねる際に生じたトルクにも依存しているためと考えられます。


図2:DNAデバイスの部分構造についての分子動力学シミュレーション画像
刺激の種類に応じて、特異的な形状のコイル状スプリングが形成される。Kおよびアンチ鎖によって誘導される形状は、互いにコイル半径やピッチが異なる。さらに、緑とマゼンタで強調された粒子の分布を比較すると、コイルの内側と外側が反転していることが分かる。それぞれの刺激種について、可逆的に応答するため、トポロジーの変換が可能となる。

【今後の展望】
本研究では、化学刺激に応じた数ナノメートルスケールの変形を、より高次の空間スケールのトポロジー変化へと波及させることで、収縮・伸展したり、コイルの内外が反転したりするというユニークな機構を実現しました。本研究成果は、DNAナノテクノロジーを基盤とした新たな分子デバイス・分子システムの設計指針になるだけでなく、生体分子を素材としたものづくり技術全般の発展とその応用展開を加速するものとして期待されます。

【用語解説】
*1 DNA オリガミ:長い一本鎖DNA(一般的に7000~8000塩基程度の環状一本鎖DNA)と望みの構造にあわせて配列設計された多数の短い一本鎖DNA(各数10塩基程度)から構築されるDNAナノ構造体(または、その作製手法)。2006年にカリフォルニア工科大学のPaul W.K. Rothemund博士によって報告された。
 
*2 グアニン四重鎖(G-quadruplex):グアニンに富んだ一本鎖DNAが形成しうる高次構造。グアニン四重鎖はK+など一価の陽イオンにより安定化する。グアニン四重鎖を形成する代表的な塩基配列として、ヒト染色体末端のヒトテロメア配列(TTAGGG)nがある。構造DNAナノテクノロジーの分野では、Kに応答した構造変化や変形を実現するための「仕掛け」として用いられる。
 
*3 DNA鎖置換反応:二本鎖を形成したDNAの一方が別のDNA鎖に置き換わる反応。二本鎖DNAから突出した一本鎖部分を足がかり(トーホールド)とすることが多い。DNA鎖が、より相補性の高い相手鎖と二本鎖を形成する性質を利用している。

論文情報:
タイトル:Chemo-mechanical forces modulate the topology dynamics of mesoscale DNA assemblies
著者:Deepak Karna, Eriko Mano, Jiahao Ji, Ibuki Kawamata*, Yuki Suzuki*, Hanbin Mao* (*Corresponding Authors)
掲載誌:Nature Communications
DOI: 10.1038/s41467-023-41604-z
URL: https://doi.org/10.1038/s41467-023-41604-z

プレスリリース:
三重大学
https://www.mie-u.ac.jp/news/topics/2023/11/post-2956.html
 
研究成果:
東北大学大学院工研究科
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