東北大学
学際科学フロンティア研究所

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タンパク質フォールディングの速度論的制御分子の開発に関する最新の知見と展望 ―「遅延制御機構」が反応を促進する新しい学理と、構造異常タンパク質に起因する難病治療に貢献する学術基盤 ―

2024年1月26日『Chemical Science』誌に論文掲載および1月29日プレスリリース

2024.01.29

東京農工大学大学院工学研究院の村岡貴博教授、東北大学学際科学フロンティア研究所の奥村正樹准教授、徳島大学先端酵素学研究所の齋尾智英教授の研究グループは、タンパク質フォールディングを促進する酵素のメカニズム解明、および類似機能を持つ低分子化合物の開発に関して、「遅延制御」という独自の機構を提唱し、世界をリードする重要な成果をこれまで多数発表してきました。本論文で、これまでに得られた最新かつ重要な知見をまとめ、今後の展望と合わせて報告しました。
 
アミノ酸が連結して作られるポリペプチドは、天然構造と呼ばれる特定の三次元構造を形成して、タンパク質としての機能を獲得します。この天然構造を形成する過程をポリペプチド鎖の折りたたみ、フォールディング、と呼びます。非天然型の立体構造を形成した構造異常タンパク質は、神経変性疾患や糖尿病などのミスフォールディング病を発症する原因と考えられています。またタンパク質は、インスリンや抗体医薬などバイオ医薬品としても広く利用され、その社会的重要性は近年急速に高まっています。フォールディングを効率よく進める生体システムの理解と、フォールディングを促進する薬剤開発は、ミスフォールディング病の予防や治療、そしてタンパク質製剤の生産効率の向上に直結する重要な課題です。その中で我々は、独自に見出した「遅延制御機構」に基づき、以下に示す重要なメカニズムの解明と技術開発を世界に先駆けて達成してきました。
 
  • 分子シャペロンが、フォールディングを遅延させるホールダーゼ(Holdase)および促進するフォールダーゼ(Foldase)として対照的な二面性を示す分子メカニズムの解明
  • ミスフォールディング病との関連が指摘されるジスルフィド結合触媒酵素群が、酸化還元反応の遅延制御によってフォールディング速度を精巧に調節する分子メカニズムの解明
  • 遅延制御機構に基づく、生体内システムと比肩する高い活性を持つ初めての人工フォールディング促進分子の開発


図:タンパク質フォールディングの概要とフォールディング促進に関わる分子シャペロン、酸化還元酵素、シャペロン模倣人工分子、酸化還元酵素模倣人工分子。

論文情報:
タイトル:Enzymatic and synthetic regulation of polypeptide folding
著者:Takahiro Muraoka*, Masaki Okumura* and Tomohide Saio*
*責任著者:
東京農工大学大学院工学研究院 教授 村岡貴博
東北大学学際科学フロンティア研究所 准教授 奥村正樹
徳島大学先端酵素学研究所 教授 齋尾智英
掲載誌:Chemical Science
DOI: 10.1039/D3SC05781J
URL: https://doi.org/10.1039/D3SC05781J
 
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