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安定的に操作可能な開殻化学種による高速タンパク質修飾
2024年11月18日『Tetrahedron Chem』誌に論文掲載
2024.11.27
タンパク質構造中のチロシン残基は疎水性と親水性の両方の特徴を持つ稀有な残基であり、多くの割合でタンパク質の内側に埋もれていますが、一部はタンパク質表面に露出しています。タンパク質表面に露出したチロシン残基は、翻訳後修飾の基質としての役割だけでなく、タンパク質間相互作用や核酸‐タンパク質間相互作用界面における分子認識に重要な役割を担っています。また、タンパク質フォールディング時や変性時においてチロシン残基はタンパク質表面への露出度が変化することが知られています。よって、動的に変化するこれらのチロシン残基の状態を観測するためには秒スケール、ミリ秒スケールで完結する化学反応の開発が望まれていました。これまでのチロシン残基修飾反応では、秒スケールで反応を制御できる手法は限定されており、チロシン残基選択性等を考慮すると、新たなアプローチからの化学反応の開発が不可欠でありました。
東北大学学際科学フロンティア研究所の佐藤伸一准教授、東北大学生命科学研究科の石川稔教授、友重秀介助教、東北大学情報科学研究科の西羽美准教授、東京科学大学総合研究院の田中裕也助教、福山大学薬学部の重永章教授、徳島大学先端酵素学研究所の齋尾智英教授らの研究チームは、酸化剤の検討や電気化学的な反応条件の検討により、室温で数分間は安定に存在する開殻化学種を開発し、化学種の特性、反応性を評価しました。試薬としては安定である一方で、タンパク質、もしくはタンパク質混合物と触れ合うと約30ミリ秒の半減期でチロシン残基を化学標識されることを明らかにしました。今後、本手法はタンパク質表面構造のダイナミクスを解析する用途での展開が期待されます。
これらの研究成果はElsevierが出版する『Tetrahedron Chem』誌に2024年11月18日付で掲載されました。

論文情報:
タイトル:Tyrosine Bioconjugation Using Stably Preparable Urazole Radicals
著者:Shinichi Sato, Shogo Miyano, Keita Nakane, Zhengyi Liu, Munehiro Kumashiro, Tomohide Saio, Yuya Tanaka, Akira Shigenaga, Chizu Fujimura, Eri Koyanagi, Hafumi Nishi, Shusuke Tomoshige, Minoru Ishikawa
DOI: 10.1016/j.tchem.2024.100111
URL: https://www.tetrahedron-chem.com/article/S2666-951X(24)00050-0/fulltext