東北大学
学際科学フロンティア研究所

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人工脂質膜を電気化学発光で観察 – 生体膜の新しいイメージング手法の提案 –

2025年2月2日『Chemical Communications』誌に論文掲載

2025.02.05

細胞は脂質膜に包まれた構造をしており、細胞内小器官の多くも脂質膜で区画化されています。脂質膜は細胞がその機能を発現するための重要な構成要素であると言えます。脂質膜はリン脂質などを用いて、例えば平板電極上に人工的に再構成することができます。これを人工脂質二分子膜といい、細胞膜の機能を分子レベルで評価するのに適したモデルです。しかし、非常に薄い脂質膜(数ナノメートル程度)を観察する方法は限られており、高度な表面分析装置(全反射蛍光顕微鏡や原子間力顕微鏡など)を使用することが一般的でした。
 
東北大学学際科学フロンティア研究所の平本薫助教、平野愛弓教授(電気通信研究所/材料科学高等研究所)、伊野浩介准教授、珠玖仁教授(大学院工学研究科)のグループは、電気化学発光という現象を利用して、平板電極上に形成した脂質二分子膜を直接イメージングする手法を開発しました。脂質膜を形成した電極の入った溶液中に、ルテニウム錯体とトリプロピルアミンを入れて電圧を印加すると、これらの物質がわずかに脂質膜を透過し、電極表面で反応して発光を生じます(電気化学発光)。発光は電極の極近傍で生じるため、薄い膜でもぼやけることなく可視化することに成功しました。さらに、発光強度や発光の開始電位は、ルテニウム錯体と脂質膜との親和性や静電的相互作用によって変化することを見出し、これを指標に異なる組成の脂質膜を区別できることを示しました。
 
本研究は脂質膜の新しいイメージング手法を提案するとともに、脂質膜と発光物質の物理化学的な作用について知見を与えるものであり、人工脂質膜を用いた研究の加速につながります。
 
本研究成果は英国化学会誌『Chemical Communications』誌に2025年2月2日付で掲載されました。また2025 Emerging Investigatorsのコレクションとして掲載されます。


図:電極上の脂質膜をルテニウムビピリジン錯体(Ru2+)とトリプロピルアミン(TPrA)の電気化学発光(Electrochemiluminescence: ECL)を用いて観察する手法を構築。脂質組成によって異なるECL挙動を示す。

論文情報:
タイトル:Electrochemiluminescence of [Ru(bpy)3]2+/tri-n-propylamine to visualize different lipid compositions in supported lipid membranes
著者:Kaoru Hiramoto*, Ayumi Hirano-Iwata, Kosuke Ino, Hitoshi Shiku
*責任著者:東北大学 学際科学フロンティア研究所 助教 平本 薫
掲載誌:Chemical Communications
DOI:10.1039/D4CC06245K
URL:https://pubs.rsc.org/en/Content/ArticleLanding/2025/CC/D4CC06245K
 
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