東北大学
学際科学フロンティア研究所

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星間空間を漂うブラックホールを高エネルギー宇宙線加速器として新たに提唱

2025年3月10日『The Astrophysical Journal Letters』誌に論文掲載

2025.03.17

我々の住む宇宙は宇宙線と呼ばれるほぼ光速で飛び交う荷電粒子で満たされています。その中には1000兆電子ボルト(= 1 ペタ電子ボルト)を超えるような高エネルギーの宇宙線も存在しており、そのような高エネルギー宇宙線を加速する天体をぺバトロンと呼びます。しかし、ぺバトロンがどのような天体なのか、高エネルギー宇宙線の発見から50年以上が経過した現在も明らかになっていません。ぺバトロンは0.1ペタ電子ボルト程度のガンマ線やニュートリノを放射するため、それらの粒子を観測することで高エネルギー宇宙線の起源に迫ることができます。 宇宙線の起源として本命の候補であった超新星残骸の多くは、ガンマ線の観測からペバトロンではないことが示唆されており、他の宇宙線源が必要である可能性があります。2019年に稼働した中国のガンマ線検出器LHAASOは0.1ペタ電子ボルトを超える宇宙ガンマ線を検出しており、ペバトロンの起源解明に期待がかかっています。LHAASO実験により新たなガンマ線天体が複数報告されていますが、その中にはガンマ線スペクトルの特徴が既知の天体と異なる未知の天体も含まれていました。
 
東北大学学際科学フロンティア研究所の木村成生助教らの研究チームは、星間空間中の分子雲と呼ばれる高密度ガス内を漂うブラックホールがペバトロンであり、それがLHAASOが発見した未知のガンマ線天体とも対応しているという新たな説を提唱しました。我々の住む天の川銀河には、1億個から10億個ものブラックホールが存在していると理論的には考えられています。宇宙空間を漂うブラックホールは周囲の星間物質をその重力で引きずり込み、膨大な重力エネルギーを解放します。その際、星間物質と一緒に磁場もブラックホール周囲へと引き込み、ブラックホールの周囲に強く磁化したプラズマを生成します。その磁気エネルギーを解放することで、ブラックホールは1ペタ電子ボルトを超える宇宙線を生成します。これらの高エネルギー宇宙線は天の川銀河を伝播して地球に到達します。研究チームはこのシナリオを使うと地上で観測されている1ペタ電子ボルトの宇宙線観測データを説明可能であることを示しました。また、ブラックホール周囲で生成された宇宙線は、周囲の分子雲と相互作用することでガンマ線を生成します。これらのガンマ線がLHAASOが検出した未知のガンマ線天体のデータも説明できることも示しました。今後、ブラックホール天体の観測や高エネルギーのガンマ線・ニュートリノの観測が進むことで、長年の謎である高エネルギー宇宙線の起源を明らかにできるかもしれません。
 
これらの研究成果は米国天文学会発行の天体物理学専門誌『The Astrophysical Journal Letters』誌に2025年3月10日付で掲載されました。
 
 
論文情報
タイトル:Isolated Black Holes as Potential PeVatrons and Ultrahigh-energy Gamma-Ray Sources
著者:Shigeo S. Kimura, Kengo Tomida, Masato I. N. Kobayashi, Koki Kin, and Bing Zhang
掲載誌:The Astrophysical Journal Letters
DOI:10.3847/2041-8213/adb841
URL:https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/adb841
 
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