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増本 博 教授(先端学際基幹研究部)
2016.09.29
増本 博 教授
『Scientific Reports』に論文掲載、および報道発表
プレスリリース/2016年9月29日
先端学際基幹研究部の増本博教授は、公益財団法人電磁材料研究所の小林伸聖主席研究員、本学金属材料研究所の高橋三郎助教、および国立研究開発法人日本原子力研究開発機構先端基礎研究センターの前川禎通センター長との共同研究において、全く新しい発想による透明強磁性体の開発に世界で初めて成功しました。開発した材料は、ナノグラニュラー材料と呼ばれる、ナノメートルサイズの磁性金属粒子を誘電相中に分散させた金属と絶縁体(誘電体)の2相からなる薄膜材料であり、室温で大きな光透過率と強磁性を示し、かつ、透明度が磁場で制御可能な新しい磁気-光学効果を示すことを見いだしました。
透明な磁性体の開発は、磁性材料研究において重要なテーマの一つです。室温で透明な強磁性体が実現すれば、磁気・電子および光学デバイスのみならず、様々な産業分野に多くの革新的な技術発展をもたらすことが期待できます。これまでに、磁性半導体や磁性酸化物において透明な磁性体の検討がされてきましたが、室温では磁化が小さく、また十分な透明性が得られないなど、透明な強磁性体は実現されていませんでした。今回、増本教授らの研究グループは、ナノメートル(1/1000000ミリメートル)の微細複合構造を持つナノグラニュラー磁性体の研究開発を進め、可視光領域において高い光透過性を持ち、かつ強磁性併せ持つ薄膜材料の開発に成功しました。この材料は、粒径が数ナノメートルの鉄-コバルト合金微粒子(グラニュール)が、フッ化アルミニウムの媒質(マトリックス)中に分散した構造を有します。この構造により、鉄-コバルト合金による強磁性とフッ化アルミニウムによる光透過性の両方の特性を同時に発揮することができます。さらに、この材料の光透過率は磁場の大きさを変化させることによって制御できることも見出しました。これは、過去に報告の無い新しい磁気-光学効果であり、鉄-コバルト合金の強磁性グラニュール間の量子力学的トンネル効果によるスピン依存電荷振動に基づく『トンネル磁気誘電効果』によって説明されます。
この新しい材料は、世界で初めて実現した室温で透明な強磁性体であって、かつ、透明度が磁場により自己調整できる機能を持ちます。今後の開発の進展によって、例えば、速度、燃料計や地図を自動車や航空機のフロントガラス上に直接表示するデバイスなど、次世代透明磁気デバイスや電子機器の実現が可能となります。
なお、本研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports(サイエンティフィック レポート)」(9月28日付)に掲載されました。

図 (a) 660℃に加熱したガラス基板(コーニング社製イーグル2000)上に作製したFe9Co5Al19F67ナノグラニュラー膜(1μm)の写真。膜は透明で、後ろの赤、青、黄色の文字をくっきりと見ることができます。 (b) Fe13Co10Al22F55ナノグラニュラー膜の光透過率の変化(波長:1500nm)。丸印は実験値で実線は理論値です。これは、スピン依存電荷振動による『トンネル磁気誘電効果』に基づく、従来に無い新しい磁気-光学効果です。
プレスリリース:
東北大学