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世界最高クラスの活性と選択性を併せ持つ水素化触媒の開発に成功 ~計算科学から明らかとなった、複数元素の協同作用による水素分子活性化機構がカギ~
2025年7月10日『ACS Catalysis』誌に論文掲載
2025.07.22
アルケンやアルキンといった不飽和化合物の水素化反応は、医薬品開発や材料開発といった有機合成化学において重要な還元反応の一種です。一般には活性炭に担持されたパラジウム触媒(Pd/C)が用いられますが、Pdは貴金属で埋蔵量が限られることから、より少ない金属量で高い還元活性を示す固体担持金属触媒の開発が求められます。
上記の触媒は1つの粒子(<100nm)あたり数百~数千の原子で構成される「Pdナノ粒子」が活性点で、多量の金属で高い還元性を発現する一方、粒子表面で反応するため単位原子数(単位質量)あたりの触媒活性は低下します。これに対し、「分子触媒」はPd金属原子1つが有機物を還元するため、単位原子数(単位質量)あたりの還元頻度は向上するものの、還元力の低下が課題となります。この「Pdナノ粒子」より小さく、「分子触媒」より大きな中間的存在として、金属原子が数個~数十個集まってできた1nmほどの大きさの「クラスター」と呼ばれる分子が、「Pdナノ粒子」のような高い還元力を保持しつつ、「分子触媒」のような金属1つあたりの機能を維持する新たな触媒の一つとして近年注目を集めています。
東京大学生産技術研究所の砂田祐輔教授は、東京都立大学理学研究科の山添誠司教授、東北大学学際科学フロンティア研究所の田原淳士助教との共同研究により、「ケイ素原子で架橋されたパラジウム四核クラスター(Pd4Si3)」を活性炭に担持させることに成功し、それらがアルケンの水素化反応における高活性触媒として機能することを見出しました。本触媒は様々なアルケンを常温常圧の水素雰囲気下で還元することが可能であり、最高でPd原子一つあたり455,556回還元反応を触媒することが明らかとなりました。更に、一般的なPd/C 触媒ではアルケンだけでなくニトロ基といった他の官能基まで還元してしまうといった制御性の困難さが課題でしたが、本触媒では分子内にニトロ基とアルケンをもつ分子について、ニトロ基を分解することなくアルケンのみを還元することに成功し、本触媒が高活性のみならず高い化学選択性を有することが実験的に証明されました。
XAFS分析から本触媒は活性炭表面上でも元のクラスター骨格を保持していることが明らかとなりました。また、DFT計算による解析から、水素分子のH-H結合は、Pd4Si3クラスター骨格のPd–Si結合上で均等に開裂する様子が確認され、これが極性のニトロ基よりも、非極性のアルケンの還元に優先的に機能する原因であると示唆されました。
本成果はACS Catalysis(米国化学会誌触媒専門誌)にて2025年7月10日にオンライン公開されました。

【論文情報】
タイトル:Activated-Carbon-Supported Clusters Consisting of Four Planarly Arranged Palladium Atoms as Highly Active and Alkene-Selective Hydrogenation Catalysts
著者:Chikako Yanagisawa,# Rinako Miyauchi,# Risa Nishiura, Yoshimasa Wada, Seiji Yamazoe, Atsushi Tahara,* Yusuke Sunada* (#equally contributed)
*責任著者:東京大学生産技術研究所 教授 砂田祐輔 (実験科学全般)、東北大学学際科学フロンティア研究所 助教 田原淳士 (計算科学全般)、
掲載誌:ACS Catalysis
DOI:10.1021/acscatal.5c00339
URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acscatal.5c00339